829日目 人助けをした

 

昼食をテイクアウトして、背中を丸めながらそそくさと家に帰っていると、向こうからやんちゃそうな男子大学生の集団が雑談しながら歩いてきました。空白の火曜日に滅入っている俺の肩は、いっそう小さく縮こまります。

連中まで十数メートル。いよいよすれ違おうと、軽く俯いてかわそうとした、そのとき。連中の端っこで悠々と喋っている、いかにも一軍らしい金髪の学生が、背中からハラリと黒いダウンを落としました。

はっとそれに気づいた俺は、あわあわと迷いながら彼にアイコンタクトを試みますが、向こうはてんで通行人に気を配る風もありません。落とし物に気づかぬまま、スタスタと今にもこちらへ歩いてきます。

俺だけが見ている落とし物。いまこの場で、俺だけができる人助け——。

一瞬の逡巡。逡巡の末に、私はぎこちなくぱたぱたと手を振って、接触を試みました。

「あ、あの」

ぼそぼそと独り言ちる陰気な大学院生に、目をやる者は一人もありません。

「あの、すません」

連中の進路に少しだけ被さるように、僕はちょっとだけオーバーに手を振りました。すると、ようやく彼らは足を止め、怪訝そうな顔でこちらに視線を向けました。「なんやコイツ」と言わんばかりの空気です。

僕は自分で話しかけておきながら大いにまごついて、気の利いたセリフも出ないまま、おもむろに落ちているダウンを指さしました。

彼はほとんど反射的に指さされた方向に目をやると、

「ん? ああ!」

すぐに意図に気がついて、軽くジョギングしながら落とし物を取りに戻りました。

他の連中が「あざーす」等の気楽な挨拶を発しています。僕はそれを背後で聞きました。もうとっくに、僕は歩き出していたのです。ひとときの英雄的行為であるはずなのに、何だか大それた、身に余ることをしてしまったような気がして。

ふと顔を上げると、ちょうど彼がダウンをひょいと拾い上げたところです。小脇に抱えて駆け出しかけた彼は、ふとすれ違いざまにこちらを向いて、何やら気さくなお礼の言葉を口にしました。

それが何と言っていたのかは分かりません。僕は帽子のフチに手をやって、ぎこちなく二、三度ぺこぺこしながら「もごご」と口走り、足早にその場を去りました。目を合わせることもしませんでした。

 

[RESULT]

・通行人に話しかけた +3pt

・人助けをした +10pt

・バッドコミュニケーション -100pt

 合計   -87pt

 

だから俺は、突発的に誰かを救うたびに、却って惨めになる。