404日目 Found

 

どういうわけか最近、前の人がよく物を落とす。昨日は自転車のご婦人のサンバイザーが地面に転がった。今日は前に並ぶ青年が書類の束をドサッと落とした。

すかさず拾って「すみません、落としましたよ」と手渡すと、相手は照れながらもお礼を述べてくれる。些細な人助けだが、引きこもり一人暮らしの俺にとっては貴重なコミュニケーションだ。ひょんなことから社会の役に立てたような気がして、満更でもない。ただし、ちょっと恥ずかしい。

 

😮⭐😮⭐😮⭐😮⭐😮⭐😮

 

免許証の更新に行った。初回の講習なので啓発ビデオを見せられるのだが、見れば見るほど運転への意欲が減退していくような気がする。

都市の健やかな発展を願う立場からすれば、ハッキリ言って自動車というのは諸悪の根源だ。交通安全の問題だけではない。渋滞の問題、商業衰退の問題、全てに自家用車交通が関わってくる。理想を言っていいのなら、免許は一部のプロフェッショナルだけに交付して、その他大勢の一般人からは車ごと取り上げてしまいたい。

だが、俺だって車の楽しさやロマンは理解できる。それに、現実的な問題として、中山間部から自家用車を取り上げることはできない(たとえそれが、認知症のご老人のものであっても)。

だからもどかしいのだ。声高に「自動車撤廃!」などと叫ぶわけにもいかず、かといって素人でも狂人でも免許が取得できる今の制度を好きになれるわけでもなく。

 

😮⭐😮⭐😮⭐😮⭐😮⭐⭐

 

午後からは研究バイトの打ち合わせをした。OBの先輩とマンツーマンだ。

どういう作業をするか、どんな理論を用いるかという話をしたが、全く以て理解できなかった。先輩の説明が下手なのではない。俺が「本当に4年間も勉強してきたのか?」と疑われるほどの無能なのだ。

まあそれでも、いろいろすり合わせをしてなんとか一段落したところで、勤務開始日までの宿題が課された。なんでも「R言語」とかいうのをマスターする必要があるらしい。プログラミングなんてPythonの先っぽくらいしかしたことがない。だが、これは自分の手に技術を宿すチャンスのような気がしている。今のところやる気は十分だ。

 

😮⭐😮⭐😮⭐😮⭐😦⭐😮

 

そんな素敵な先輩も、秘書さんの手に掛かればかわいい息子のようなものだ。

打ち合わせが終わってから、飲みに誘われて行った。実はご時世やらなんやらで、ラボ関連で飲み会と名のつくものに呼ばれたのは初めてのことなので、内心非常にウキウキであった。

五十路の夫婦と三十路の先輩に囲まれて、恐る恐る酒を飲む二十二の俺。慣れない身からすればなかなか異様な光景だった。だが、関西気質の陽気なトークに乗せられてバカバカ飲んだ。

バカバカ飲んだが、次第に話題が真面目な話に寄っていったので俺も真剣になっていった。先輩の人生相談のような形だ。ベテラン夫婦の助言は時に手厳しくも力強かった。「自分を安売りするな」「貴重な二十代を暴れてみせろ」。俺は元来、年上の人の話には素直に耳を傾けてしまうタチだ。熱と愛の籠ったアドバイスに、素直に感動を覚える。

心底、カッコいいと思った。人生相談に乗ってくれる豪快な夫婦もカッコいいし、くよくよしている先輩も自分の人生に真剣になっているところがカッコいい。俺もこうなりたい。詰まるところは、他者を幅広く肯定できるような、懐の深い男になりたいのだ。……まずは自分を肯定するところからだが。

 

😮⭐😮⭐😮⭐😯⭐😮⭐😮

 

「お客さん、忘れ物!」

呼びかけられて振り向くと、黒のキャップを手渡された。

誰かに落とし物を拾ってもらい、彼かの落とし物を拾う。

小さな人付き合いは、巡り巡っている。