
本屋――それは、人類の叡智が集い、好奇心を湧き立たせる処。

万札――それは、大いなる自由を湛える、一枚の上質な券。
思い出すのは、三年前のあの日。
学生だった俺たちは、万札の重たさに堪えかねて、日和った。
半分の、五千円札。そこから先へ、踏み込むことはできなかった――。
だが、今や俺はサラリーマンとなった。
そして、折しも今月は、入社後初めてのフルボーナス月。
電子書籍の方が便利? 図書館なら無料?
否、そんな遠慮や言い訳は、もはや無用。
今こそ興味と関心の赴くままに、リベンジを挑むべき刻だ。
なぜなら、

そこに日本最大規模の本屋があり、そして俺たちの手には万札があるのだから!
「万札握って本屋へ行く! ~リターンズ・2025~」! すっぞッ!!


応ッ!!
制限時間は2時間! 14時ちょうどに再集合! 間に合わなかった奴には死あるのみ!!


応ッ!!
始めェィッ!!


チェストォォォォ!!!
~2時間後~

さて! それじゃあ早速見せてもらうぜ、戦利品をよォ!
見せあいっこ……しよ?
賭け狂いましょう!
まとまりねー
〈登場人物〉
13時43分
14時01分
14時04分
14時07分(全ての本にカバーを付けてもらったため)

自分はまず、これ!『歴史の中の植物 花と樹木のヨーロッパ史』。
おー! 植物? 歴史??
ナツメヤシだとかオリーブだとか、神話にも繋がるいろんな植物の来し方を紐解いて、西洋の文化に与えた影響を地理・歴史の両面から見ようって本だね。
分かるわ~、その系統の分かり手の知識ってまず間違いなくおもろいんだよな。あとでその本くれ!
なんでだよ

他のラインナップは『リミナルスペース 新しい恐怖の美学』『地形散歩のすすめ』と……。
『新詳地理資料 COMPLETE』!?
帝国書院だ!!
うわ懐かしい……授業中にチラチラ読んでたタイプのやつじゃん。
オイスたんはあんまり読み物って感じじゃないラインナップだね。
自分でお金を出して手に入れたい本って、手元に置いといてたまにつまみ食いする資料集とか、散歩の足しになるガイドブックとか、そういう系だと思って。
いいなあ、生活スタイルまで見えてくるような素敵なチョイスだ!
〆て1万と50円でした。
オーバーしてんじゃねえか

次は僕かな?


金具が自己啓発本!?!?!?
そんなに?
『仕組み化する人はうまくいく 先延ばしをなくし「すぐやる人」になる55の法則』かあ。
今までこういう本を避けまくって来たけど、敢えてちゃんと読んでみるのも大事かなと思って。読んでみてから判断すればいいもんね。
こういう法則の数ってゾロ目がち。
それか「8か条」とかね。
「たった1つの法則」も見かけたよ!
行くところまで行ってるな……

他は、まず読み物が『方舟』と『しおかぜ市一家殺害事件 あるいは迷宮牢の殺人』。タイトルにも惹かれたんだよね!
へぇ、ミステリが好きなんだ!
あとは技術史の『ピアリング戦記』と、統計学に基づいた『認知バイアス辞典』。
文芸系と学問系の両極からチョイスしたんだ。意外と見せかけて、結構「っぽく」もあるよな~。

俺はまず、この絵本ね。
『天使のたまご 少女季』……?
なんか押井守って書いてあんぞ。
40年前にアニメ映画化された作品で、今ちょうどリマスター上映されてて、その天使のたまごって映画はマジでいいので本当に見に行って欲しいんだけど、ああそうだ、この絵本がそれの原作で、つまりそういうことです。
いまオタクの加速の気配した?

残りは『Life goes on 黒山 キャシー・ラム作品集』とサルトルの『嘔吐』。
キタ! 画集だ!
なんかふてぶてしい顔してんのがめっちゃいいな~! 猫ちゃカワイイ全振りじゃなくて、どことなくオッサンっぽいというか。
サルトルって小説も書けるんだ。やるじゃん。
知り合い?
俺は割とよく本を買うので、一冊くらいに抑えなきゃな~とか思いつつ、なんだかんだ何冊も買っちゃった。
万握(まんにぎ)企画者としてありがたいの一言……!

ラストバッター行きます! まずは『マンションポエム東京論』!
お、めちゃくちゃ「っぽい」のが来たね。
う~ん、このマンションポエムは……才能アリ!
プレバト?
この本はいわゆる「ポエム」としてどうこうじゃなくて、顧客に訴求する売り文句としての形式やキーワードから、都市住民にとっての「住」への価値意識とか、東京近郊のエリア意識の均衡とかを読み解く本らしくて。
我々「非・地元民」には身についてない感覚が分かるようになるかもね。
あと、表紙がオシャレでかわいいのも決め手です。
だろうな~と思った!

他はまず、日頃の感謝と期待を込めて、オモコロ発の『悪魔情報』と『本が読めない33歳が国語の教科書を読む』。それから『歩いて学ぶ都市経済学』。
めちゃ面白そう! ……っていうか、表紙がさっきのと同系統だな?
好みが分かりやすくていいね。全部ソフトカバーだし。
最後に金額調整で『夏への扉』。
SFかな? 文庫で調整するのはいいね!
〆て1万と300円でした!
一番オーバーしてんじゃねえか!

このあと、一行はサムゲタンで身体を温め、酒を食らって大いに気持ちよくなった……(そして二枚目の万札が消えた)。
万札を握って、本屋へ行く。自分の感覚とセンスを、あるいは一瞬のパッションを信じて、何百万冊という叡智の中から数冊を選び取って購入し、いつか読む日を楽しみに紙袋を抱きかかえて帰るという、この喜び!
染みわたるスープの旨味に蕩かされて他愛もないクソバカを話しつつ、俺たちは皆、一人ひとり心の中で「最初はどの本を読もうかな?」と考えを巡らせてウキウキしていたのであった。
みんな、ここまで読んでくれてありがとう!
次は感想戦でお会いしましょう!
正直、作中で言った俺のツッコミは一部捏造だよ!
では、皆さんありがとうございました!


って、なんで俺くんが!?
~本当の本当に終わり~