「じゃ、今日はこんなとこで」
そう言うや否や俺は、パソコンを畳んでそそくさと離席した。いつにもまして中身のないゼミ発表。こんな日は余計なツッコミが入る前に、さっさと自分の番を終わらせるに限る。
俺と入れ替わりで、ラボの中でも人一倍優秀な男がパソコンを携えてやってくる。すれ違うソイツの顔には、よく出来た発表を聞かせてやろうというハリキリが漲っていた。
ペラペラと威勢よく喋り始めたソイツを尻目に、俺はさっきまでソイツが座っていた席に腰を下ろした。誰にも聞こえないため息を心の中でつく。
ふと机上に目をやると、見慣れない小さなワイヤレスマウスがぽつんと置かれている。どうやらこいつは、今まさに雄弁を振るっている優秀な男に置いて行かれたらしい。
途端、俺の中でチラリと顔を覗かせる悪戯心と、俺の目が合った。
奴は自前の資料をプロジェクターに映し、器用に片手でページをめくりながら、もう片方の手振りを交えて悠々と自説を語っている。……ソイツがちょうど、タッチパッドから指を離して両手を浮かせた瞬間に、俺は息を潜めて、
コツン、
とマウスの尻をデコピンした。
壁に映るカーソルが、ひゅぱっ、と勢いよく上へ走る。
途端、ヤツは「んえっ」と鳴き声を上げ、眉をひそめて画面を凝視した。
俺は笑いを押し殺した。