769日目 案外身軽に軽薄に

 

田舎の住宅団地で従順に育った俺が、高校卒業を機に親元を離れ、孤軍奮闘のナイーヴでセンチメンタルな四年間を過ごしたまち。そんな「第二の故郷」に、半年ぶりに帰った。

まちとは何か? 人付き合いとは何か。俺とは一体、何者か? 生きるとは、どういうことか。……考えることは数多くあった。旧知の人々との再会を騒ぎながらも、あわいの時間には川を見、夜空を視て、何か自分の立っている座標と、自ら選んだ選択の意義とを探していた。

そして、ついに「今」へ帰るときが来た。最終の新幹線に乗った俺は、じんと痺れるような重い眠気を感じ、淡い意識の中で目をつむった。……次に目を開いたときには、そこには何の感慨もなく「今」のまちが俺の帰りを受け入れていた。

……だからつまり、例えばなにか、まちを「捨てた」とか。人生の一つの選択肢を「捨てた」とか。そんなサード・エンドな物語の主人公に、無理に自分を位置付けようとしなくてもよくて。俺の故郷は、ちょっと頑張る程度のお金と時間があれば、明日にでもすぐに戻れるところにある。地続きにあるさまざまなまちや「過去」に、いつまでも囚われているような気がしても、その実、俺たちは案外身軽に軽薄に、気楽に前へ歩いて行ったっていいんだ。そう思ったんだ。