その日、俺はヤツと飲んでいた。
曇り空のトーンが徐々に落ちていって、夜を迎える街。
通りの向こうから颯爽と現れたヤツは、あの頃と変わらない、野心に満ちた瞳をギラギラさせていた。
俺たちは合うや否や、互いに確認するでもなく、すぐそこの角の中華屋の暖簾をくぐった。
「ハイボール行きますわ。何飲みます?」
「そうだな、俺は……。青島ビールで」
「チンタオ? そんな薄いの飲むタチでしたっけ」
「はは。まあ、歳だからよ」
「何すか、それ笑」
ヤツが口の端を上げる。かつてのままの、若さゆえの、社会への挑発。
対する俺は、ここ数年ですっかり枯れ果てたように思う。渇いたニヒルな声が、喉の奥から浸み出す。
「ははっ……。ったく、お前はチンピラのときのままだな」
「当たり前じゃないすか。おれはずっとアンタを追いかけてんすよ」
ギラつく素直な瞳に見つめ通されて、俺はたじろぐ。ついつい、言い訳が漏れる。
「おいおい、やめろよ。俺なんかもう、この通り、コースを外れた負け犬だってのによ……」
それを聞くや否や、ヤツは間髪を入れずに。力を込めて、こう言った。
「諦めたんすか?」
「え?」
「夢はどうしたんすか」
「へっ。何カッコつけて……」
「夢。あったっしょ」
「……ああ」
夢……。
……あんなのは。
「あんなのは、もう忘れたさ」
「へえ」
ヤツは気のない返事をすると、ハイボールをぐいっと呷って飲み干し、立ち上がった。
そして振り返り、
「アンタが忘れても、おれはまだ追いかけてるっすよ。ネイリストの道に挑む、アンタの背中を」
ヤツは焚きつけるように、擦れた俺を侮蔑するかのように、そう吐き捨てた。
立ち去っていくヤツの背中に、俺は何も言えやしなかった。
一人で歩く帰り道。足元がふらつくのが、無性にむしゃくしゃする。
「くそっ。あんなヤツ、何を偉そうに」
アスファルトを踏みつけるように音を立てて歩く。俺の虚勢は見え見えだった。
心の底では、よく分かっていた。ヤツの生意気な魂胆が。そして悔しくも、それに乗せられようとしている俺の、まだ衰えることのない若さが。
「……夢、ね」
散らかった小箱の底から、数年来に取り出す、俺の武器。懐かしい。
……そうだ、この気持ち。どうにでもなるという、舐めクサった野心。
あるいは、今なら。今こそ。
ベースコートを手前から指先へ、滑らせるように塗る。
手に馴染んだ所作。気がつけば、酒の震えは収まっていた。
ぷっくりと、色づく果実のように、レモンエロウのポリッシュを落として、延ばす。
不格好な丸い爪の上に広げる、黄色のキャンバス。
「————ふう」
さあ、舞台は整った。
ブラシに黒のポリッシュを浸して、慎重に持ち上げる。
今こそ、叶え。
全身全霊の、最高のネイルを。
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ッッヒwwwwwwwwwwwwww酷いwwwwwwwwwww前より下手じゃねーかwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwッハwwwwwwwヒwwwちょっと待って腹痛いwwwww