503日目 唐突に甦る恐怖症

 

シャワールームの脱衣所の掛け時計が足元の壁に裏向きに立てかけられていて、不審に思ったネカフェの店員さん。

すまん。それ、俺の仕業だ。

あんな狭い空間に、あのデカさの時計。俺には無理。怖い。シャワーのビニール戸を正面から睨みつけるような配置。意を決して中に入ったら最後、もはや出ることは叶わない。

そんな不吉な未来を予見した私は、脱衣所に入る前にまずスッと右腕を滑り込ませ、文字盤を見ないようにサッと時計を取り外した。床上に立て掛けられたヤツは、俄に大人しくなったかのように見えた。

しかし、湯を浴び終えて体を拭いているとき。ふと、耳が音を拾う。

カチ…カチ…

それは、唐突に恐怖され仕事を奪われたヤツの、呪詛の言葉のようだった。一度聞こえてしまったら、その小さな音はもう永遠に耳奥まで届き続ける。

カチ…カチ…カチ…カチ…

 

……だから、例えネカフェがどんなに快適で素晴らしい空間であったとしても、私はもうなかなか行けないんですね。