「おっ、ここか。公園ってのは」
「そうそう。そこにベンチがあるだろ」
夜中の住宅街を二人の大学院生が、ふらふらと歩いて来る。見るとその手には一本ずつ、ラムネの瓶。
「ラムネってコンビニにも売ってるんだな。久々に買ったわ」
「俺、飲んだこと無いかも」
「マジかよ」
めいめいに言い合いながら二人は園内に入っていくと、おもむろにベンチに瓶を立てて、飲み口にプラスチックのフタを突き立てた。
「なに? 体重かければいいわけ」
「思いっきり。思いっきり行きゃ2秒よ」
「どんなもんか……えいっ」
キュプッ、という音とともに栓が抜け、ビー玉が落ちた。
「……そんでさ、まあギリギリに動画撮ってよこしたけど、それっきり連絡は来ない。まあ落ちたな」
「へえ。ずいぶんとややこしい会社もあるんだな」
「んっとだよ。就活とかマジでキショいわ。おまけに忙しいし、金は無ぇしよお」
酔いに任せて、わめく。そして、瓶に口をつけて、勢いよく夜空を仰ぐ。
うすくぬるい、けれども涼しい甘みが、喉をぴたぴたと潤していく。
「お前マジ、ラムネ飲むの下手だな~」
「上手いも下手もあんのかよ」
「まあ見とけって。ここにビー玉を止めるんだよ。俺は早飲みで優勝したこともあんだ」
そう言うなり、男は瓶を傾けて、すいすいと水をほとばしらせた。
「……まあ、早いっちゃ早いな」
「はあ? ちゃんと見てたかよ」
軽口を叩く二人の前に、夜道はしばらく続いている。
「ありゃ? こっちか」
家々の切れ間から夜空が見えるところを探して、歩く。
「何探してんだ?」
「おっ、あった。あれだよ」
指さす方向を見ると、そこには満月になりきらない、精養軒のオムレツのような月が浮かんでいる。
「そこそこきれいだろ」
「ああ。まあまあ、きれいだな」
立ち止まる二人を中心に、すうっとカメラが引いていく。
夜半の静かな商店街で、ラムネをぐびる大学院生たち。
ちっぽけに映る彼らの、街並みの向こうに、東京の大都会は見ゆ。
文月の、月。気づかぬうちに。
俺らにゃちょっと、夏がすぎる。