232日目 エンドラン


弟の部活の卒業試合(追い出し回)を、グラウンドの端に立って眺めていました。

学校の荒れた土を駆け、白球を追う彼らは爽やかで。公立高校らしい、人数ピッタリの弱小チーム同士。けれどもそれが、とても健やかで心地良い。

受験勉強ですっかり腕が鈍った我が弟。下級生にも当然、ボコボコに打たれまくります。それでも、ピンと背筋を張って堂々と、大きく腕を回して球を投げ続ける。ストイックにやってきた3年間の、全てを燃やし尽くすかのように。

活気に満ち満ちた高校のグラウンドに、互いを鼓舞する声はよく響きます。弟の一球一球を元気に励ますキャッチャー。全力プレーで盛り上げる内外野の仲間たち。


スポーツっていいな、と思いました。チームスポーツは、こんなにも嬉しい。俄に私も、彼らの中に交じって、全身で球を追いかけたくなるほどに。


高校で文化部を選んだ私は、以来もやしのように細々と日陰を生きてきました。大学1年で初めて憧れの野球に挑戦した時には、もう完全に手遅れで。下手なプレーで迷惑をかけ、恥に耐えられずそそくさとチームを抜けました。

選んだ道に後悔はありません。けれど、かんかん照りの昼下がり、甲子園のテレビ中継に胸を熱くする自分がいて。しなだれた春の夜、プロ野球の戦力分析にワクワクする自分がいる。何より今日、弟がいい球で三振を取った時、思わず「いよっし!」と声を上げてしまう私がいたのです。

私は、野球がしたかった。


弟は大学ではまた別のスポーツをするそうです。これから一年生としてキャンパスに足を踏み入れる彼なら、鍛えられたフィジカルで、どんな競技にでもきっと適応できるはず。彼の人生の夏は明るい。

一方私は、いつの間にか学部の最上級生になっていました。今更スポーツに打ち込む余裕なんてないし、今後も運動の喜びを味わうことなく、少しずつ老いへの道を進むだけ。


けれどもどうしてか今夜は、決して辛くはないのです。


白昼のグラウンドで聞いた高校生たちの掛け声が、エネルギーをくれたのでしょうか。