231日目 因子継承

 

そのウマ娘は、父ウマから真面目さの因子を、母ウマから賢さの因子を継承しました。ですが、継承できなかったものや、継承してしまったものもたくさんあります。

 

食後の団らんで、どういう流れだったか、父が熱い信念を語り始めました。いつもの調子で「クリエイティブ」だとか「イノベーション」だとか。

彼の瞳は真剣そのもの。事実、彼は己の理想に沿って、見返りを求めず「生きがい」のもとに日々働いています。誠実な立ち姿はたいへんカッコよくて、立派に見えるのです。

 

しかし、彼が「君には何かを生み出す力があるはずだ」「この国を引っ張る人材になってほしい」と言い出すと、私の心はズシリと重くなります。

壮大な目標を掲げて生きることは素晴らしい。しかし、その実現に足る不屈の努力スペックを、私は彼から受け継いでいないのです。大いなる理想の具体的な着地点が見つからず、それを探求するための労力を払う気にもなれない。一丁前に真面目なくせに、根性というものが欠けているから、ただただ自分の未熟を責めることしかできなくて。

 

父譲りの臆病さと、母譲りの怠惰さ。そのウマ娘は今夜も、不安と諦めのドン底で現状維持を続けます。大義も熱意もないままに入学してしまったトレセン学園で、グラウンドから聞こえる歓声に恐れをなして、寮のベッドに昼じゅう潜り込んで。

メイクデビューは、すぐそこに。