233日目 終わる幻、止まらない船

 

夢のように長く感じられた春休みも、間もなく終わりを迎えます。

 

いよいよ四月からは、高く険しい壁のオン・パレード。研究室のゼミ、大学院の下調べ、院試の勉強。それが終わったら卒論。同時並行で、取りこぼした単位を回収して留年回避。いずれも高い努力スペックが要求される、私には到底無理な難題です。

鍛錬は一年だけでは終わりません。修士課程に入ったら即、単位を掻き集めながら就活。就職先が決まったら大慌てで論文。修了次第、ほとんど遊ぶ暇もなく社会に出されます。

この先に続く何年、何十年の道筋はお世辞にも明るいとは言えない。それを考えるたびに憂鬱で憂鬱で……。ここ半年くらいは、大好きなゲームにすらあまり没頭できない日々を過ごしました。勉強を振り捨ててバイトに走り、自己肯定感を高めて悩みを忘れようともしました。……しかし、タイムリミットは必ずやって来るものです。

 

春休み、楽しかったなあ。ブラックバイトを辞めて、期末試験もぶっちして、逃げ込むように始まった二月。同じくモラトリアムに彷徨っている仲間達と、夜の河原で傷を舐め合って。

中旬からは、愛しき大都会・東京に長く棲みつきました。初めて会ったフォロワーたちと酒を飲み交わし、夜の学生街をお散歩。池のほとりの公園で、サッカーなんかやってみたり。道路で踊り狂う限界イピマオーを観測されなくて良かった……。

高校同期とは温泉旅行にも行ったっけ。年季の入った立派な旅館で、身に余る懐石をいただいたり、秘話を語らせ合って夜を明かしたり。単発の旅行らしい旅行は、結局この一泊だけだったな。

東京から戻ったのも束の間、三月の初めには荷物をまとめて、マンションを引き払って実家に帰りました。そして今夜も、あてがわれた四畳半間でカタカタとキーボードを打っています。

 

楽しかったですよ。この二ヶ月間。誰かとくっついていれば、学業から離れていれば、こんなにも穏やかだった。

最近の日記は、ボリュームの多い日ばかりだったでしょう。何故なら、やるべきことがなかったから。何者にも追われず、追いもしない静かな日々だったからこそ、じっくりと文を練るだけの余力があったのです。

 

昼過ぎに、研究室配属の連絡が届きました。ここが、幻の終わり。そう、ハッキリと分かりました。

志望理由書を書かなければなりません。書くためには、平和ボケした脳を叩き起こして、マジメなことを考えなければいけません。マジメなことを考えるとき、これまで見ないふりをしてきた困難を視界に捉えないではいられません。

ふと目をやると机の上には、買ったっきり開いていない語学の本。院試の下調べ用にまとめた書類。これが私の、本来やるべきこと。

 

じきに地元を去り、新居に入り、面接を受け、各種手続きをして、私の一人暮らしは再開します。それも、これまでのような怠惰と娯楽の暮らしではなくて、己に鞭打って山の上のキャンパスと隣町のキャンパスとを往復する暮らしが。

講義が始まったら、日記の文字数は極端に少なくなるでしょう。自分の愚かさを楽しく書きつけるような心の余裕も、時間の余裕も無くなって、夜半にぽつりと三文字だけ「イピマ」と呟くでしょう。

 

しかし、私は更新し続けます。行進し続けたい。

帰りの電車の中でうとうとしながらでもいいから、絵文字ひとつでもいいから、タイムラインに投げつけたい。あるいは夜中の無人のラボで、勉強するフリをしてコリコリ長文を書きつけたりもしたい。

本当に自分は変われるのか。それともやっぱり、変われないのか。どっちに転ぶかなんてこれっぽっちも分からないけれど、その行く末を見ていたい。見ていて欲しい。だから、心の歯車が磨り減って体がぶっ壊れるその日までは、航海日誌をつけ続けようと思います。

 

 すみません。もうちょっとフランクな展開にするつもりだったんですが。