904日目 あと二ヶ月ちょいでM2??

 

えっ? あと二ヶ月ちょいでM2??

そんなこと信じられる? 信じらんねえ。信じられねっす、俺。

 

一般的な工学系学府における最高学年、それがM2(D進の皆さんごめんなさい)。どんな分野の学部生であっても、研究室に入れば必ず「M2」と呼ばれる男女と邂逅する。誇り高く、また近寄りがたくもある一種の雰囲気を纏い、受け答えも良く、所属したばかりの自分とは天と地ほどの差がある……そんなショックを新入りに与える、年上の存在。M2とはそういう立場にある者だ。

えっ。そんな存在に、もうすぐ俺もなるってのか? 嘘だろ?? そんなわきゃない。あの頃の先輩の立ち姿に感じた知性や思慮深さを、今の俺が携えているとは全く思えない。何なら昨年、俺がM1として大学を移籍してきた時ですら、たったひとつ上のM2が驚くほどお兄さん・お姉さんに見えた。けれどもこの一年間で、俺は変われたか? 変わってない。ちょっぴりの知識の蓄積や、ふたつみっつの経験の引き出しだけでは、ガキは大人にはなれない。なのに、俺が「先輩」?? 困ったらとりあえず相談投げてみるか、な立場に? できないよ。俺、無理っす。絶対に後輩諸君の方が精神年齢高いもん。なあ。なあなあなあ。

 

けれども……。思い出してみたらさ。俺が大学に入ったばかり、まだペェペェのB1(当時はB1なんて呼び方知らなかった)で、文学系のサークルに入ったとき。当時のB3の先輩たち、ちょうど二十歳になるならないくらいだろうか、それくらいのお姉さんお兄さんたちは異様にカッコよく見えた。大学生活に慣れ、いわゆる「退廃」の雰囲気を纏った先輩らが、初めての飲み屋で「ああ、まだ(成人)なってないのね。いいよ。あんまり飲み過ぎんなよ?」と言いながら、ガキ向けの甘いリキュールをこっちに回してくれる。痺れたよな。

もちろん、今なら分かる。B3なんて全然大したことない。なんだあいつら、いっちょ前に文学語ってみせたり、ため息つきながら「そろそろ胃が弱ってきててさぁ」なんて笑い合ったりして。M1の俺でも、ペヤング大盛りはさすがに無理としても、並なら余裕で食えるぞ。第一、俺の目測では、B3なんてのは単位が足らずにあっぷあっぷしてるか、よくある失恋のどん底に落ちて泣きながら「ヤニ」ふかすか、そうでなければ一生エペとかやってて、少なくとも全然「大人」なんかじゃない、文字通りでっかい子どもたちでしかないんだ。

でも、やっぱりなあ。後から思い返せば若いじゃねーか、なんてのは当たり前のことだけど、それでもさ。当時の田舎上がりたてほゃほゃの俺にとっては、やっぱり先輩はオトナだったし、憧れの端を掠める存在ではあったんだよな。

 

あれ? じゃあ逆に、こういうことも言えないか? つまり、

四月からの俺は今日の俺とまるっきり地続きで、全然頼れる「先輩」なんかじゃない。けれども、俺がM2という学年に所属する、ただそれだけで、後輩たちから見れば俺は紛れもなく「先輩」だ。中身は重要じゃない。立場が上というただそれだけで、俺の甘ちゃんさは優しさに変換され、かしこまったお堅さは頼もしさに変換される……。

どうだ? どうだろう。あまりにも希望的観測にすぎないが、それでも。普遍的な事実として、「先輩はどうあっても先輩だ」。何も気にすることはないんじゃないか? これまでと変わらないように、好きなようにやる。誠実さと微笑みを忘れずに。後は自分の思い描く「M2」の姿に重ねながら、できる範囲の慎みある言葉で後輩を支えることができれば。そうすればもしかすると、中身を伴うかは別としても、ただそこにある存在の「先輩」としては違和感のない、そんなわずかばかりのお兄さんになれることはあるかもしれないな。

 

 

まあでもまずは、研究をちゃんと進めることですね。

アイヤー!        ~完~