880日目 たるたりや

 

明日の自分が今日と同じものを愛しているかなんて、分かりっこありませんものね。

とある文芸の会に、退会の連絡を送りました。国語の教科書に載っているような作家も名を連ねる、そこそこの由緒がある会です。私がお呼ばれされたのが大学一年の頃ですから、実に五年もの長いお付き合いでした。……といっても、やる気があったのは最初の一年間だけです。どのみち復帰するつもりもないのにぐだぐだと延ばし続けて、その分だけ安くない年会費を払ってきたことになります。

どうしてやる気がなくなったのかと言えば、大学生活には文芸よりも面白い娯楽が五万とあるからです。もともと私は高校の三年間で多少の実績を作ってきたのですが、その原動力はといえばストレスフルな進学校生活に押し込められた重苦しい感情の昇華と、良いものを作れば作るほど周りに褒められるという承認の快感によるものでした。けれども、地元を出て一人暮らしが始まると、ゲームも暴食もよりどりみどりになり、直截的な刺激を以て胸をいっぱいにすることが容易くなってしまった。おまけに、私を褒めそやしてくれる顧問や部員などはいなくなった。

いつでもインターネットに触れられる自由な暮らしを手に入れて、思ったことをその場で発信するようになったのも、わざわざ作品としてじっくり練り上げるのが面倒になった原因かもしれません。ことに、二年前の夏に日記を書き始めてからは、その傾向がいよいよ決定的になりました。およそ九百日ほども毎晩々々思いの丈を書き続けて、その間どれほどのアイデアが「作品」の形を取らぬまま散文として消費されたでしょうか。……けれどももはや、私はそれを惜しいとすら思いません。錆びた刀を磨けば、或いは再び切れ味を取り戻すこともあるかもしれませんが、もう私はその一太刀を自分のものとは思っておらず、すっかり興味を失っているのですから。

退会の申請がすんなり通るかはまだ分かりませんが、きっと大した引き留めも無くあっさりと送り出してもらえるでしょう。そうなればいよいよ、私はかつての特技との関わりを絶って、特に何の隠し玉もないただの成人男性に成り下がることとなります。けれども仕方がない。

あんなに真剣に取り組んで、未来すら描いた趣味でも——冷めてしまった愛は、二度とは元に戻らない。