857日目 はーぁ情弱伝統芸能

 

はーぁ! 殺すぞ!

就活・恋愛・恥ずかしい過去。およそこの世の「人間関係」に根差すあれこれは、明示もされずほのめかしもなく、ピーチクパーチク忙しないウワサ話や言伝によって、呑気な凡夫のあずかり知らぬ間に広がり、合意形成され、あるいは席取りが勝手に終わってしまうことだってある。

そうした「社会」において俺は間抜けだ。いつも後手後手で「ほんとう」を聞かされ、大いに驚き、または恥をかく。なにぶん醜聞に興味を持っていないのも悪いが、生まれつきの勘の悪さか、察しよう察しようと思っても一向についていけない。のみならず、そうした鈍さが嫌われるのか、情報交換の活発な一軍の集まりに入れてもらえたことがない。

そんな凡夫の苦痛も知らず、人は辻風のようにやってきて、やれ「地雷を踏む前に覚えとけ」だ、やれ「君だけが知らないから特別に」だと教えに来る。なんぼ何でも遅すぎる、今さらどうにもならないときに告げ口に来て、俺を驚かせ、青ざめさせ、そうしておいて嗤っている。あるいは俺が口を開いて、何か鈍いことを口走ったとき、一同はみな「あっ」と注目し、互いに顔を見合わせて、間抜けな俺が今さら気づいて、慌てふためくのをせせら笑う。

殺してやるからな! ウワサ話が大好きな、掴みどころのありゃしない、気色の悪い「人間」ども! 排斥された間抜けな男が、冷たく不気味な上位の彼奴らを、恨んでいないと思うなよ! いつか必ず殺してやる!

……などと凄んでみたとても、甲斐の無いのは当たり前。わざとやられたわけでもあるまいし、恥をかくのは自分が悪い。気にしたところでやるかたなく、情弱の性は治せやせず、これからもただ損をして、惨めなKYとして生きていくだけ。けれども心は悔しいので、手前勝手な復讐として、俺なんぞにできることといったら、鈍さの対価に図太さを磨き、機先を制して人の上に立ち、思う存分うまいもん食って、愛だ恋だと悩む男女を「大いに結構」と嗤うことです。