914日目 ちにもおだてりゃ木に登る

 

インターンにはグループディスカッションが付きものだ。そして、グループディスカッションにはフィードバックが付きものだ。

各班の発表が終わり、一連のアクティビティが締め括られたところで、それまでじっくり学生たちを観察していた社員から、学生一人一人に向けた個別のフィードバックが行われる。

居心地の悪さを感じながら待っているうちに、いよいよ俺が論評される番が来た。まず第一に、社員が血眼で探してようやく見つけた「良かったところ」が述べられる。

「君は頭の回転が速い」

そりゃそうだろ。それだけが取り柄なんだから。

「専門性が高く、多角的な視点を持って議論をサポートしていた」

そりゃ、俺以外みんな文系の学部生なんだから、相対的にそうなるだろうよ。

「加熱する議論から一歩引いて、冷静に整理する役割を果たしていた」

そんなもの、単に熱意が欠けていて舌戦に参加できなかっただけの話。

……こんなもんはどうでもいい。心臓に悪いのは「もっと改善したら良くなるところ」だ。物は言いようというヤツで、要はダメ出し。振る舞いを変えて解決できることなら何を言われたって構わないが、生来の性格に関わる部分だとどうしようもない。その先にあるのは絶望だ。

「せっかく知識と思考力があるのだから、もっと議論に参加して場を回す役割を担わないともったいない」

……あれ? これって褒められてないか??

 

そのあと、懇親会なるものがあった。酒の入る場とはいえ、訪問先の部署の社員や、人事の社員と「歓談」しなければならない。到底お気楽にバカな話をするような時間じゃあない。

ところがこの度はどういうわけか、話題があらぬ方角に転がった。恋愛のこと、結婚のこと。心底ダルい流れだ。俺のこれまでの歩みに、恋バナで切れるカードなんか一枚もない。

気持ちよく飲んで顔を赤くした女性社員がペラペラと語り始めるには、

「どこまでもしゃべり倒す男性より、いつもは寡黙で必要なときだけスパッと言える男性の方がモテると思う!」

途端、テーブルを囲む一同の視線が一斉にこちらを向いた。アホか。あんたら、彼女いない歴=年齢の根暗院生クンをイジって楽しいか。全然モテたことないっすよ、と俺は半笑いでかぶりを振る。

「えー、そんなことないでしょ。知性感じるし、タイプに刺さる女の子もいると思うのに」

うるせーよ。俺は岳場ゆかりとアグネスデジタルセリカ(黒ビキニ)で忙しいんだよ。でもまあ、ありがとうございます。

 

まあー、なんで日記にわざわざこんなことを書いたかといえば、俺は日頃は研究室の底辺の大うつけを演じているが、その実は捨てておくには惜しいハイパーなポテンシャルを秘めたスーパーインテリ男子だということだ。お前ら、ひれ伏せよ。賢く深遠で、何よりカワイイ俺を崇めよ。がおー。

……

 

あ〜〜〜あ!! 褒めるんだったら採用しろよな!!!

 

 

うわっ電車乗り過ごしてる!!!