1063日目 父

 

父が海外出張から帰ってきた日、久々の団らんにホクホクしている両親の前で「たけちゃんと遊ぶ約束をしてたのに!」とごねて叫び、怒る母を抑えて僕を行かせた父の顔が哀しそうだったことを思い出す。

父は激務でほとんど子どもと遊ばず、家にいるときは堅苦しく、それゆえ子どもに慕われてはいなかった。僕にとっては、大して親しくもなくちょっと怖い父よりも、友達に借りて遊ぶマリオの方が大事だった。僕はぷんぷん怒りながら家を出て、友達の家まで歩いたが、いなかったので帰ってきた。そして何事もなかったかのように笑顔で海外土産を頬張って父を祝った。父はどう思っていたろう。

子は餌付けをした親によく懐く、と聞いて「だから僕がお父さんを好きじゃないのは当たり前なんだ」と自信を深めたこともある。それは父にとってなんと酷なことだったろう。

仕事に一途な父が、唯一僕と弟に手づから授けてくれたのは、週末のキャッチボールだった。車で公園へ向かう道すがら、今日はどれくらい怒られるだろうか、と不安と楽しみが綯い交ぜになった気持ちで熱い風を浴びていたのを思い出す。

あのとき教わったキャッチボールで、僕はいま友達や先輩と仲を深めている。父と腹を割って話せるようになったのは高校の後半から大学にかけての頃だ。もうすぐ社会人になろうとしている今、ようやく父と同じ視座でもっと深い話ができる気がする。