432日目 手。

 

手。

 

ツイッターに流れてきたとあるマンガを、今でもよく覚えている。

ふたりの女の子は、互いに親友——いや、親友をちょっと踏み越えたくらいの関係だった。お淑やかだけれどちょっといたずら心のあるお嬢様と、刺々しいけれど根は真面目なワル。

ある放課後。ふたりが会話していると、そこに同級生の女の子たちが通りかかって、話しかけてきた。愛されキャラのお嬢様は、にこやかに彼女らに応対する。しかし、ワルは皆から敬遠されているので気まずく、お嬢様の後ろでひとり、バツが悪そうに突っ立っていた。

すると、無沙汰になったワルの手元に、お嬢様の後ろ手がスッと伸びてきた。そして、ワルの手をさわさわと撫で始めたのである。

表向きは同級生と世間話に花を咲かせているお嬢様。しかし背中側では、ワルに対して「大丈夫。私はあなたのことだけを考えているよ」という優しいメッセージを送ったのだ。

……しかし、ワルは戸惑い、押し殺すように黙りながらもほんのりと赤面していた。

なぜなら——そこには、裏のさらに裏に隠された、お嬢様のイジワルな感情が込められていたからだ。「嫉妬してるの?」「ドキドキしていいよ」「触れてあげる」……という、煽情的なナニカに。

何コマも何コマも、複数ページに渡って、指が指を弄ぶシーンが描写される。撫でて、さすって、這わせて、離して。

記憶が定かではないが、マンガの終わりには確か、二人それぞれの表情が描かれていたと思う。ちょっぴり頬を赤くして、らしくもなく狼狽えるワル。そして、いつも通りの優しい微笑みと見せかけて、うっすらと開いた目にサディスティックなものを浮かべたお嬢様……。

 

「これはセックスだ」

僕はそう思った。なんでか知らないけど、そう思った。

 

以来、僕の中には幻想が憑りついている。この世にあまねく存在する美少女の指が、相手の指や髪、または腰や尻尾に触れる。それはそれは神秘的で、そしてどこまでも官能的で……。

そして願わくば、そんな世界をもっと見たい、あるいは自分でも書けたらいいと、そうどこかで感じている。

 

手。