358日目 ひと夏の居候の部屋

 

夢から醒める直前、私は2階にいました。

その空間は少し不思議で、けれど夏の風が涼しくて、ロマンチックなところでした。

 

 

旦那様と奥様、それからお子さんたちが住むこの家に、ある若者がひと夏の間居候しています。居候の理由は分かりません。親戚なのか、書生なのか、はたまた旅人なのか。

ともあれ、居候には「離れ」があてがわれました。倉庫の屋根の上に掘っ建てられた、四畳半ほどの畳間です。東西南北四面ともに、足の高さから天井まで全面窓。窓を開ければそよ風が抜けて、遠くの山がよく見える、展望台のような部屋です。

畳間の出口は渡り廊下に繋がっています。廊下を抜けた先は、お嬢さんが寝起きする部屋です。一家の長女で、唯一の女の子で、居候よりいくつか年下のおとなしい娘さん。わんぱくざかりの弟たちに広い子供部屋を渡して、お嬢さんは三畳ほどの狭い畳間で朝夕を過ごしていました。そのお嬢さんの部屋と、居候の部屋が繋がっていたのです。

夕餉に呼ばれたときも風呂に入るときも、居候は必ずお嬢さんの部屋を通ります。お嬢さんは大抵、壁に凭れて本を読んでいます。二人は何も交わしません。けれどたまに、居候がふとお嬢さんへ目をやると、お嬢さんが本を膝に置いて、居候をじっと見つめているときがあるのでした。

夜。居候の部屋はカーテンで覆われ、その隙間から電球の光が漏れ出ています。夜遅くまで、勉学に耽っているのでしょうか。……渡り廊下を一本隔てて、お嬢さんは居候の部屋を窓から見ています。そして、小さな胸のときめきを、懸命に抑えようとするのでした。

 

あり得ない住宅です。全面窓なんて、構造計算はどうなっているのか。プライバシーもへったくれもない。避難計画やら空調やら、問題は山積みです。

……けれど、おかしな平面配置の建物には、その配置だからこそ生まれるシチュエーションや、ロマンがある。不思議な住宅空間のイメージが、ひと夏の暮らしを夢想させるのです。

一瞬の光景ではありましたが、面白い夢を見たものだと思います。

 

え? もっと時間をかけて、ちゃんとキレイな図に起こせって? CADで再現しろって? いやいや、勘弁してください。こちとら設計のことなんて何にも分かんないし、明日は期末テストなんですから。勘弁してつかあさい。後生ですから。