332日目 全てが嫌になったのでアダルトショップへ向かう

 

雨が止むまでサビ残して、スカスカの電車に乗りました。

 

もう、全てがダメです。

 

周りを見てください。就活に打ち込む人。院試の勉強に取り組む人。研究に勤しむ人。あるいは、趣味に血道を上げる人。

では、私は何をしていますか? 院試の準備は始めましたか? 人に恥じない十分な努力ができていますか? 一心不乱に突き進む、情熱はありますか?

財布を開くと、月頭だというのにこれっぽっちしか入っていない。のらりくらりと無労働の期間を長く過ごしてきたツケです。

誰が私を認めてくれますか? ……いえ、私を認めてくれる人はいるでしょう。ですが、私自身は俺を認められますか?

 

寝ても食べても治らない、重く苦しい梅雨の頭を揺らして、私はゆらりと夜の繁華街へ降り立ちました。

 

 

アダルトショップへ行くために。

 

 

え? なんで?

いや、知らんよそんなん。検索したら出てきたんだもん、近くにあるって。

なんかこう、面白そうじゃん? アダルトショップって。友達連れで覗いてみたことはあるけど、一人で行くのは居心地が悪いというか、ちょっとした肝試しみたいで楽しそうじゃん?

そういうわけで私は夜の路地をずんずん進んでいきます。猫背で。早歩きで。おたく。

 

歩いていくこと数分、そのお店は意外にも堂々と、デカデカとしてありました。入口で店員のおっちゃんがガサガサと掃除をしています。以前私が働いていたとこの上司とダブって見えて、少し嫌な気持ちです。

まあそんなん、ここに入ってしまえばどうでも良くなりますから? さっそく突入してみましょう。陰なる魑魅魍魎が巣食うであろう、恐ろしき魔窟へ!

 

 

……

 

 

……あれ? めっちゃ明るいんですけど!

 

えっ、なんだこれ。

アダルトショップってもっと陰気なところじゃなかったか。細っそい雑居ビルの狭んまい階段を登って行ったら、赤く塗られた壁の中に面妖なグッズが並んでいて、真っ黒の布で窓は隠されて、みたいな。

それがこのお店は、どうしたことか、普通の白い蛍光灯に照らされて、ありとあらゆる卑猥な道具がオシャレな美容家電のように展示されている。突っ込むアレやら震えるソレやらが、元気なポップと共に陳列されて。なんだここは。そこらのヤマダ電機より陽気じゃないか。

 

怖いものを見に来たはずが、いつの間にか心はほぐれ、くすくす笑うほどの余裕すら生まれてきました(それはそれでキモい)。健康器具のようにスタイリッシュなものから、ベッタベタの煽情的痴態に心躍るものまで。なんだここは(2回目)。こんなに多種多様なものが、こんなに堂々と売られているのか! 

一通りぐるぐると店内を巡りました。非常にウケました。はい。閉店間際のアダルトショップが、私の一日を愉快にしました。何やら知り合いに紹介したくなるような、そんな意味不明の清潔感を湛えたお店でありました。

 

 

何食わぬ顔をして、いつもの駅に戻り、電車に乗り込みます。そこはたまたま先頭車両で、たまたま一番前方の座席でした。

目的地に着くまで、ずっと先頭の景色を見ていました。興味津々の自分が愛らしく思えてきました。

 

まっすぐバスに乗り換えず、和食チェーンに立ち寄りました。初めて入る店ですが、食券式なので大丈夫です。

思い切ってセットメニューを頼みました。ただのファストフードなのに、コミュ障で外食が苦手な私には物珍しくて、何やら特別に美味しく感じる親子丼でした。

 

ぺこりと運転手に会釈して、バスを降りました。ゆったりとした歩みで横断歩道を渡り、コンビニへ寄ります。

ずっと気になっていた「カヌレ」を買いました。今日だけでいくら使ったろうと考えると不安になって、カヌレだけを片手に持って帰りました。

 

 

カヌレは焦げたプリンのような、美味しいけれど不思議な味のするお菓子です。無暗に手がベタベタします。

 

明日は早くて、私はダメです。

でも、今夜の私は、少しオッケーでした。