823日目 夢から醒めて

 

眠い目をこすりながら住宅街を抜けて、2限の講義をだるだる受けて。コンビニ飯で昼を済ませたら、あとは暗くなるまで長い長いゼミ。

いつも通りです。いつも通りの日常が、戻ってきました。

たった昨日の夢の国で過ごした思い出は、ずっと昔の、遥か遠くの出来事のようです。

 

kiritiny.hatenablog.com

東京ディズニーシー、すごかったなあ。物心もつかぬほどの遠い昔に一度訪れたっきりの、十数年ぶりの海と冒険の世界。ガイドブックで覚えた断片的な知識は、光と音と手触りによって、鮮やかに塗り替えられていく。

「リゾートラインの回転率と収益はどうなってんだろ」とか「新エリアの施工会社はどこぞ」とか、そんな穿った見方に凝っている気分も、いつかは忘れて。特に、両足と感覚器が鈍ってきて、夢と現実の境目が曖昧になる夕方から夜中にかけては、美しく目の前に立ち現れる幻想の港の精巧さに、まるで本当の世界旅行に来たかのように没入していました。

何枚もの素晴らしい写真と、忘れることのないルカツィテリ・ストリ・マラニ。「価値ある体験をした」という優しい気持ちが、確かにこの胸の中に収まっています。

……そして同時に、「これほどまでに感動的な一日は、もうこの先の人生には無いだろう」というような、ある種の絶望——麻酔が切れたあとの幻肢痛のようなものを抱えて、今日の空気を私は吸いました。

 

アトラクションは全部で8つ乗りました。

タワー・オブ・テラー

落下事故が起きると分かった状態でエレベーターに乗り込むライド。普通に生きていたらあり得ない力が内臓を強襲するので、絶叫というより爆笑に近い悲鳴が出る。

俺より何倍も乗りたがっていた連れが、俺より何十倍も青い顔をして落下していったのが面白かった。人は、自分より緊張している人がいると冷静になる。

アクア・トピア

水上をくるくる回ったりすいすい走ったりするライド。意外と勢いよく動くので侮れない。

でも、わあわあ騒ぎながら乗ってるの、俺たちだけだったな。なんて素直な成人男性なんだ。

シンドバッド・ストーリーブック・ヴォヤッジ

ただただ歌が上手い人形劇を眺めながら、緩急のないレールをゆっくり滑っていく。ディズニーシー屈指の待ち時間が短いライド。

三半規管に優しくて嬉しい。あと、歌は本当に上手いよ。

海底2万マイル

潜水艇に乗って未知の深海を探検するライド。思ったより密閉感が無かったので、却って安心して、豊かなスリル演出を楽しむことができました。

順番待ち中の演出で「ここはネモ船長の研究室です」と言われたときは胃がキュッとなった。

センター・オブ・ジ・アース

火山の奥部をぎゅわんぎゅわん暴れ回って、挙句の果てに山肌を超高速で突き落とされるジェットコースター。

「ヤバいヤバいヤバい! ……って、まだかーい(笑)」を繰り返していたら、急に「あっ、これかあ!」が来た。そして即座に終了。ある意味清々しい。

タートル・トーク

アドリブが得意なイケボの男性のトークでバカ笑いする新喜劇。ギャラいくらくらいもらえるんだろ。

お前たち、最高だぜ~! ウォー

インディ・ジョーンズ・アドベンチャー

コントロールの利かない車に乗せられて、古代遺跡の中をギャンギャン大爆走するジェットコースター。特にビビらせる演出とかはなく、ただただ最初から最後までずっと激しい。

ちょうどワインで気持ち良くなっていたときに乗ったので、アホほど楽しかった。一番面白いかも(珍しい意見)。

ソアリン

オモコロの社員の皆さんが口を揃えて「最高」と言っていたライド。昼頃にファストパスを買っていたおかげで、なんとか閉園間際に乗せてもらえた。

フィナーレで乗客たちが大きな拍手を送るアトラクションなんて、初めて乗ったかもしれない。俺も夢中で拍手した。感動的だった。

レイジング・スピリッツ

「360度回転はイヤだ」とごねまくったら、搭乗を免除してもらえました。

 

 

エリアが切り替わる地点の、視覚を利用した上手なカモフラージュの仕方とか。一見すると雰囲気が統一されているパーク内の、あちこちに潜む排水設備や、安全設備とか。敢えて迷いやすい道路構造にすることがもたらす、街並みのリアリティの拡張とか。「幻想を壊さないための造園学・建築学・都市学的ノウハウ」みたいな、そんな発見をしながら歩くのも一興でした。無論、ニワカのテキトーな意見をべらべら述べているに過ぎないのですが。

 

面白いばかりではなく、ノリに乗りきれなかった部分だってあります。ミッキマウたちが繰り広げる水上ショーのキーワードは、例えば「ドリーム」。「ビリーヴ」。「カラフル」。大きな夢を信じて、皆で羽ばたこう!(高くくぐもった声)……そんな、あまりにもメッセージングな讃美歌が雄大な湾を揺るがすたび、俺は内心で「純粋でいいなあ」と遠い目をせざるを得ませんでした。夢と希望の明るい人生観を刷り込むには、23歳というのは少し遅すぎたようです。

あと、トイレのことはずっと気にしていましたね。もう長いこと、一日中ずっと万全だった日なんか無いので。今回はあまり他人のバイオリズムを気にしない連れだったので安心して過ごすことができましたが、やっぱり基本的には、私にとって外出というものは大きなストレスであるようです。

まあしかし、こんな些細なネガティヴは、遥かな刺激と興奮の前ではほんの瑣事だったと言って良いでしょう。

 

何はともあれ、素晴らしい朝から夜までの旅でした。一日平均7万人強を集客する観光施設の底力を見ました。……だなんて書き方をすると頭でっかちに見えるかもしれませんが、振り返ってみればそう思えるというだけで、実際のところはそんなに不純ではありません。

あの日あの時あの瞬間——アメリカン・ウォーターフロントの大きなクリスマス・ツリーを背に、めいっぱいの変顔のセルフィーを撮ったとき。私はただ、心の底から、浜風が吹きつける冒険の港を楽しんでいたのでした。