486日目 それなりの悪夢

 

縁起の悪い夢を2本立てで見て飛び起きた。ひとつは実家が全焼する夢で、もうひとつは部屋中に湧いた色とりどりの益虫害虫を駆除する夢だ。

なんだ虚構か、と気づくと同時に力が抜ける。冬が来たからか寝起きが悪く、頭がすっきりしない。ぼんやりとスマホを見てはまた布団に潜り、を繰り返すうちに昼をだいぶ回ってしまった。

夕方のゼミに間に合わすべく、うんうん唸って起き上がる。昨夜はワールドカップ観戦で盛り上がったが、それから丸半日も眠っていようとは。劇的なものを目の当たりにしても人間は変わらないものだ、と自分に呆れながら家を出る。

 

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ゼミの発表は滞りなく滞った。なにせ全く研究の中身がないのに上っ面だけは見栄を張ろうというのだから、教授らに突っ込まれるのは当たり前である。まあしかし、進みは遅くとも自力で方向性を決めていたのが評価されたか、面白いね、等そこそこ温かい言葉を掛けてもらったように思う。頑張ればまだギリギリ卒業はできそうなラインである。

だが、お開きの後にぼそっと教員が呟いた。「キミ、ヤバいよ」。シンプルな感想が私の胸を抉る。今日で安心せず、明日も明後日も己に鞭打って進まなければ……。

 

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昨日に引き続きゲームセンターに寄った。例の新作ゲームをやるためである。

音楽ゲームにはいろいろな楽しみ方があるが、私はもっぱらひとつのお気に入り曲にこだわって何回もプレイするタイプである。あらゆる楽曲を片っ端から詰めようとなると多大なるバイタリティと財力が求められるうえ、相当上手くない限り「なんとなくやってみた残念なスコア」の山を築くばかりになる。だが、早々と好きな曲を絞り込んでその譜面ばかりやるようにすれば、どんなヘタクソでも数回でみるみる点数が上がっていくので気分が良い。飽きたらまた次の曲を探すか、しばらくゲーセンから離れるか、である。

そういうわけで今日は、まずいろんな曲にちょっかいを出してお気に入りをひとつ決め、あとはもうその曲ばっかり注文していた。しかし、スコア表示を見るに、どうも体感と実際の判定が合っていない。少し早めてみるか。……おっ、なるほど。これくらいだと自分に都合が良いな。……そんな風にやっていたら、なんだか妙に見栄えのする点数が出てしまった。

 

 

写真を撮り、もう一度見返して、私はすぐさまツイッターで知人に送りつけた。自慢するためである。

 

音ゲーは本来、究極の個人記録競技。各人の力量に正直な世界であり、実力差が簡単には覆らないからこそ、積極的に他人と比べ合うのではなく、最終的には己と向き合って楽しむ遊びである。すなわち一般的には、良いスコアが出たからと言って「俺はお前よりこんなに上手いぞ!」とわざわざ見せびらかしに行くのはご法度である。

だが私の場合、点数をひけらかしに行くのが特例的に認められている相手がいる。何故かといえば、圧倒的な実力差があるからだ。端的に言えば、イキったワンちゃんが可愛がられに行くようなものである。もしそのまま一生涯こちらのスコアが上回っていられるのなら儲けものだが、向こうが本気を出せばものの数回で逆転されるであろう。後から「わからせ」できると分かっているからこそ、向こうは一旦引き下がってやんやと褒めたたえる。こちらは機嫌が良くなって調子に乗る。WIN-WINである。

ちなみに、格上の人物にスコアを見せびらかして気持ちよくなるコツは、そいつが一度触ったっきりまだ真剣にやっていないであろう曲を見つけて、必死に詰めること。カスみたいな目聡さだ。

 

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そういえば、昨日は先々の完璧な予算計画を立てて満足していたのだが、今日になって大きな穴があったことに気づき非常に胃が痛くなった。

穴というのは研究室絡みの遠征にかかる費用のことである。教員の手伝いに行く場合には大学から予算が支給されるが、それが届くのは数十日後。ひとまずは自分の口座から、結構な大額を立て替えなければならないのである。そのことが完全に頭から抜け落ちていた。

多少の余剰は貯金で受け止めれば良かろうという声もあろうが、そういうわけにもいかない。何故なら「完璧な予算計画」とは、一枚の野口英世も残らないキッチリとした収支計算なのだ。……まあつまり、私は限りなくゼロベースに近い状態で生きている間抜けなのであった。せめて遠征が給料日より先であればまだ何とかなったのだが……。

ツイッターで流行っていた「大学時代にやらなくていいこと」の中に「過剰な貯金」という意見があった。社会人から見れば学生のアルバイトで得られる金額なんて些細なものだから、そんなことに躍起になるよりも今しかできない遊びに投資しなさい、という金言である。だが、あくまで「過剰な貯金」が不要なのであって、多少の貯金は非常時のクッションとして大事だ。くれぐれも(居ないと思うが)大学に入りたてでこの日記を読んでいる者は、私と同じ失敗をしないように。

さて、大学に文句を言うか研究室の関係者に泣きつくか、はたまた実家に頭を下げるか。何にせよ申し訳ない。困ったことになった。

 

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帰宅して風呂に入ろうとする折、部屋の隅にちらと映る薄黒いものがあった。嫌な予感がしてもう一度確認すると、それは紛うことなきアイツである。幸いなことにそいつは小ぶりな上、殺虫剤を食べて息も絶え絶えというところであった。しかし、自宅に害虫の侵入を許したという事実がシンプルに心の平穏を破壊する。万全の対策を敷いていたのに、こんな寒い冬になって今更、どうして……。

と、ここまで長々と書く間にも、視界の隅にはまた別の虫が這っている。何ら悪事は働かないただの子蜘蛛だが、虫嫌いなので気分は宜しくない。そのうち、部屋のあちこちから聞こえるラップ音も気になり始める。全てがあの害虫の発する音で、実は室内に何匹もいるのではないかという疑心に陥る。ああ、書くだけで恐ろしくなってきた。食欲が減退していく。

そういえば、と今朝見た夢を思い出す。正夢になるとは思わなかった。まさか、もうひとつの方は起こらないでほしいものだが……。