663日目 いいちこの夢の残滓

 

社会人のおっさんらと飲むのは楽しい。「ジジイの話なんかw」と笑う人もいるかもしれないが、俺は働くおっさんの話が好きだ。

立派な上司のおっさんらは、社会的使命とか、大きなビジョンを持って仕事をしている。けれども、そういったモチベの大事さに気づいたのは中年になってから。だから「キミは若い!」と笑顔で俺の肩を叩き、勝手に夢を託してくれる。

若いと言うだけで喜ばれるんだから、俺も悪い気はしない。出自とか、普段考えていることとか、そういうのを披露する。問題意識とか、そういうのを語ってみる。すると、おっさんは「偉いねえ!」と喜ぶ。酒を注いでくれる。

案外にも、社会人との飲みの席は、未来に前向きな空間だ。だから、楽しい。

 

だが、ごちそうさまでした~と言って別れて、やがて酔いが醒めてくると、間もなく俺の中の「本当」が戻って来る。

別に俺ぁ立派な夢のある若者じゃない。研究に打ち込んでなんか、これっぽっちもない。実態は東京でふらふらモラトリアムやってるだけのすねかじりだ。

全部嘘みたいなもんだ。ビジョンとか、使命とか、俺が体良くでっちあげたことは……。

 

けれども、思い出してしゅるしゅると萎んでいくのは惜しい。活気ある酒場の、余韻を残したい。おっさんの夢の残滓を、もう少しだけ俺の中に留めて、忘れないでいたい。

だから俺は、美味しくもないカップ麦焼酎を飲んで帰るんだ。いつまでも醒めないように。