437日目 テキパキの星

 

何をするにもテキパキやりたい。そういう星のもとに僕は生まれた。

生まれのせいか育ちのせいか知らないが、とにもかくにも他人に迷惑をかけたくない。自分の怠慢で全体の調和を乱すわけにはいかないし、何よりいち早く成果をお出しすることで相手を喜ばせたい。そういうわけで、我ながら結構仕事が早い部類の人間に育った。

今年に入って何度か物書きの依頼を受けることがあったが、いずれも迅速丁寧をモットーに納品してきた。そこには二つの理由がある。一つには、パリッと素早く仕上げた方が勢いがつく上に、安心して次の作業に移れるから。もう一つは、あまりにも納品が遅いとクライアントを悲しませてしまうからである。個人的な経験だが、自分が依頼したものが〆切最終日の夜中ギリギリに届いたことがあり「あんまり盛り上がる依頼じゃなかったのかもなあ」とショックを受けたことがあった。

今現在もひとつ依頼を請け負っている。だが今回はなかなかトリッキーなお題で、未だにピタッと思いつくものが無く難航している。あまり時間がかかるとクライアントに申し訳ない……。だが、何よりも大事なのはクオリティで喜んでいただくことだ、と思い直した。たまにはどしっと構えて、じっくり時間を費やして考えることにしよう。満足いくものをお渡しできたらいいな。大丈夫、それでも自分の筆は十分速い方だ。

 

もちろん、僕のような性格の人間には悪しき面もある。先ほど「納品が遅くてショックを受けた」と書いたが、まさにそれだ。自分ならこれくらいできる、というスピード感を他人にも期待し、押し付けてしまうのだ。不味い発想だという自覚はあって、口癖が「ゆっくりやってください」になるくらいには、普段から意識的に余裕を持とうと心がけている。だが、ふとした瞬間に「みんなの意思表示がもっと素早ければなあ」とついつい焦っている自分に気づき、ハッとするのだ。

今から三年半ほど前に某音楽ゲームの運営を始めたのだが、あの頃は特に酷かった。友人のプログラマーからプランナーの任を拝命した僕は、このゲームを人気のビッグタイトルにしてやろうと本気で思っていた。それで、プログラマーたちに進捗を要求して激しくつついたりしたのだが……。今では非常に申し訳なかったと思っている。誰もが僕と同じような暑苦しい働き方を好むわけではないのだ。それに、プロジェクトが上手く回らない歯がゆさは、誰よりも僕自身にキツい負荷をかけた。

近頃は更新のペースが非常に遅くなっているが、それは僕が全く彼らを急かさないからだ。もっと尻をバシバシやれば多少は更新が早くなるかもしれないが、叩かれた方は痛いし、叩く方の手はなお痛い。同人制作というものは、言われなくてもやりたくなるくらいのスローペースで進めるのが一番良いのだと学んだ。もちろん、微速ながらも開発はちゃんと進んでいる。いつになるかは分からないが、時間をかけた分立派なものをお出ししたいものである。

 

そもそもどうしてこんな話を始めたのかというと、ついさっき友人らとのグループラインで「せっかちな奴だ」と揶揄されたからである。文脈としては的外れで、反論することだってできたはずだが、しなかった。せっかちだという指摘そのものはまさに図星だったからだ。

温厚で控え目な人物が多い当グループだが、たまには何人か、無遠慮直截的な言葉を投げかけてこちらをハッとさせる者もいる。棘のある言葉に良い気持ちはしないが、真っ当にこういったことをぶつけてくれる友人というのは貴重なものだ。実際、誰彼の指摘が僕の人格形成に影響を与えた部分は少なからずある(当の発言主は大抵忘れているが)。

それに比べると、何でもオブラートに包んで発言するあいつやこいつのようなタイプの人間は、ある意味では薄情ということになるだろうか? いや、そうであっては欲しくない、と願う。この世に辛味担当の人間がいるのなら、甘味担当の人間がいたっていいはずだ。

僕のひとつの理想はこうだ。他人にストレスを加えない適度なクッションとして働きつつ、自分の仕事はパパッと終わらせてチームの支えとなれる人物。だがそうなるためには、まずは自分がストレス耐性を高めなければならない。まあ、それが簡単にできないからこそ、人間性という味わいがあるのかもしれないが……。