153日目 逃亡

 

本当は。ちょっと、調子に乗っていたんです。

「ギャンブルの店で働いてるんだぜ、なかなかカッコいいだろ?」って。

塾講や開発職の高給取りよりもたくさん稼ぐことで、自分に自信をつけたかった。だから、大学の講義なんか放っぽり出して、大量にシフトを入れたりした。

「意外と俺も捨てたもんじゃないな」だなんて呟いたりして。自分に酔っていた。

 

昨日の他店出張で時給が12円になった話は、日記を読んだ人ならご存じでしょう。

経済面の負担もさることながら、迷惑をかけてしまったという精神的な苦しさや、そこからくる身体的ダメージの方が大きかった。

しんどさに耐えかねて、実は昨晩、上司にLINEで泣きついたのです。「どうか出張だけは回避させてください」と。

 

今朝(というか昼過ぎ)目を覚ましたら、返答が届いていました。

曰く、今のレベルでは全然ダメだね。これから一緒に勉強して、自信をつけて行こうな、と。

つまり、悪し様に言えば「今後も変わりなく出張してもらうから」ということです。

 

ぽっきりと、心が折れる音が聞こえました。

 

今月末、私は退職します。今入っている分のシフトをなんとか走り終えたら、何がなんでも辞めます。

もともとワンオペの居心地がいいから続けられていただけで、業務自体は全く向いていなかったんだ。上司が陽キャ過ぎて怖いし、いろいろの不安で生活が立ち行かなくなってるし。そもそも、儲かりもしないのに違法の仕事をするなんて良い事ナシだよな?

先月分の給料が振り込まれたのを確認したら、すぐにLINEで別れを切り出して、そのままフェードアウトしてやる。もしかしたら今月分は貰えないかもしれないけれど、すんなり辞められるならそんなのどうだっていい。

今日の日記は、後々気の迷いが生じないようにするための、決意表明のようなものです。

 

「え? たった2回の出張で心が折れたの?」「2ヶ月弱しか働いていないのに?」「面と向かって上司に切り出す勇気が無いから、LINEで適当に済ませて逃げ出そうとしてるんだろ?」

はい。その通りです。全部図星です。

「バイト 辞める すぐ」とか「バイト 辞める LINE」とか検索すると、同じような悩みを抱いた学生たちによるヤフー知恵袋の投稿が見つかります。それに対する現役社会人たちの、非難の声、きつい叱責、冷たい嘲笑……。

 

社会の厳しさに屈したこと。自分を甘やかしたこと。

いつまで立っても臆病なガキのままで、紛れもない社不であること。

完全に心が挫けてしまって、外が暗くなるまでずっと布団から出られませんでした。それこそ、この文章を書き始めるまではずっと、金縛りに遭ったまま聞こえない声を聞き続けて。

新年に入ってから、まだ一度も講義に出ていません。暗闇の夜は緊張と恐怖で眠れなくて、朝になると気を失うかのようにベッドに倒れ込むから。

 

今日はこれから何をしましょう。明日は何をしましょうか。

来週一週間、残り4回の勤務はなんとか走り切って……。

その先は、どうすればいいんでしょうか。

 

飯を食っても酒を飲んでも、大好きなゲームをしても埋まらない心の穴。ぽっかりと空いた穴の所在に困って、途方に暮れたまま、ディスプレイの前に呆然と座っています。