495日目 ふわふわのトレード・オフ

 

行きずりの小さなパン屋で、朝食とも昼食ともつかぬ腹ごしらえを調達するのが日課になっている。いつもならピロシキや惣菜もの、あるいは甘いものを交えたりして、2~3個選んで買っていくところだ。

ところが今日、私は小さなジャムパンを1つだけ買って店を出た。師走の中頃、こんな快晴の日はひときわ寒く、白い息を吐きながらとつとつとキャンパスへ歩く。無論、ひとつしかパンが無い以上は昼抜きである。私の歩調は地に足付かず、むしろふわりと軽かい。

どうしてこうなったかと言うと、シンプルにお金が無いからだった。何、別に全財産が二百円ぽっちしか無かったというわけではない。だが、口座が底を尽きて財布ひとつでやり繰りしているこの頃。少しでも気を緩め、自分を許したら、あっという間にあぶくのようにピン札が消えていくのは目に見えている。現に昨日もいつの間にか、原因は不明だが残金が目減りしていた。

494日目 理由を求めてはいけない

特に今年は、遠征だったり何だったりで已む無く出費する機会が多いものだから……。だからせめて、何も特別なことの無い日には、お札の次の一枚を切り崩すことの無いように粘ろうと思うわけである。

 

まあしかし、欲しいと思ったときに欲しいものを買えないというのは惨めだ。例えば冬服、スニーカー、あるいはゲームソフトやキャラグッズ。ふっと「手に入れたい」という衝動に駆られたとき、脳裏には必ず口座の残額が浮かび上がる。新しいアイテムを一式揃えるお金で、何日生き延びられる? ……そう思ってしまえば最後、もう二度と踏ん切りをつけるタイミングは訪れない。もし勢いが勝ったとて、大抵は数ランク下の商品でお茶を濁したり、代替品で無理に心の穴を埋めたりという方向に落ち着く。そうやって「とりあえず今はパス」して、そのまま時期を逃したホビーがいくつあっただろうか。

とにもかくにも学生という身分が情けない。仕送りをもらって暮らすカッコ悪いご身分。そんでもって、使途不明金に溶かせるような余剰のお金は持っていないし、バイトをしても稼ぎはたかが知れていて、生活費の補填とわずかな生き抜きで全て消えていく。ああ、いつでもポンとお金を出せる人間になれたら、どれほど楽しかろう。

 

そういうわけで私はぼんやりと「早く社会人になりたいな」と思っている。社会に出たいと言っているのではない、単に小金持ちの遊びができるようになりたいだけである。

学生生活の気ままさは代え難いものだが、成果も出せずのんべんだらりとするしかない自分には、学生としてやっていくほどの価値は無いと言わざるを得ない。それに学生は「気まま」ではあるが「自由気まま」では無いのだ……だって、買いたくても買えないものや、貢ぎたくても貢げない推しがたくさんある。それならば一刻も早く一人立ちして、雀の涙ほどの(と言っても学生のバイトとは桁違いの)初任給で実家に感謝の品物を贈り、そして返す手で片っ端からSkeb依頼を投げていった方が自己満足及び社会貢献になるのではないか。

貢ぐと言えば、まだブルアカに課金していない。ウマ娘には主に同志デジたん周りで結構な金額を注いだのだが、ブルアカの方にはまだ一度も放り込んでいないのである。これはひとえに、ブルアカの運営が気前よく石を配り過ぎていて、わざわざお金を出す必要のある場面が少ないからというのもある。だが、これだけ楽しみを享受したのならば、せめてフルプライスゲーム一本分くらいのお布施はしたいもの。私がバリバリの社会人だったら、今頃いくらかは払っていたのだろうが……いや、そう言い訳するものではない。本当に貢ぎたいなら今すぐにでも財布をこじ開ければ良いではないか。いやしかし、それでは明日の生活が立ち行かなくなる……。とまあ、そういう葛藤があるから学生の身分は情けなく、肩身が狭いのである。あ、でもヒナちゃんのモデルガンが出たら今ここで即座に予約するのでよろしくお願いします。その覚悟はできてます。

 

帰り際、宝くじ屋を見かけてふと、もし明日急に五十万円もらえたらどんなに嬉しいかなあ……などと夢を膨らます。まず四十万は貯金する。残りの十万だが、こんなものは泡銭だからパッと使ってしまった方が良かろう。まずはああいうカッコいいものとか、ムフフなものとか、そういうものを注文して……。あとは焼き肉にも行きたいし……。

といった風にぽんぽんと想像が広がれば面白かろうが、残念ながらお金の話は無理筋すぎ、というか切実すぎて、どうせそんなことは無いさと胸を萎ませるばかりなのであった。

それに、ひょんなことから絶大な力(例えばお金無限湧きボタンなど)を手にしたものは、力に溺れてあっという間に破滅すると相場が決まっている。そういう話で真っ先に思い浮かぶのは「人生リセットボタン」である、とここから懐古的な趣味の話に入っていくこともできるのだが、今日はここまで。

 

 

カレーに二日目があるように、餃子にも二日目がある。

 

 

うおっでっっか、何やこれ……

 

 

綺麗な形に包めた餃子は、敢えて二日目に残しておいた。そうすることで、今日の自分が昨日の自分を褒めたたえる機運が生まれるからだ。

 

とはいえ、仕込み2時間・包み2時間・焼きと片付け1時間、と考えるとあまりにもコスパが悪い(食べるのは10分だから)。世界で最も美味い一子相伝のレシピだが、次に作る機会はまたかなり先になりそうである。絶頂の裏にある地道な積み重ね。何事もトレード・オフだ。

 

ところで、寒いのでふわふわの白いセーターを着ている。女の子化ボタンを手に入れるには、何百年のお勤めが必要か分からないな。