173日目 あゝ音楽の懐古趣味

 

今日もやることやってないのに、無駄に立派なクッペを買った。

責めはすれども罰しはしない、自分に甘い冬の夜です。

 

昨日のお昼前、湧きあがる焦燥感に居ても立ってもいられなくなった私は、ともかく気を紛らわそうと外を出歩いておりました。

いつもの橋に差し掛かって、冷たい風を浴びたとき。突然、鮮明なイメージがフラッシュバックしたのです。

それは、まだ大学に入ったばかりの頃、初めての夏休みに心躍らせたときの記憶。馴染みの学科棟で最後の試験を受け終えて、ゆらりふらりと河川敷を歩いて帰った、あの景色です。下宿に戻って、椅子に腰かけ、半年を走り抜けた達成感に浸りました。昼下がりの風に揺れるカーテン、差し込んでくる初夏の日差し……。

 

情けないですよね。記憶のトリガーを引いたのは「午前中の河川敷」。それだけのことであの夏まで遡ってしまうほどに、今の私はぼろぼろに崩れ、暗い夜にしか橋を渡らなくなってしまった。全てがリモートに代替された二年前の春から、今の今までずっと、私はキャンパスライフに背を向けてきたのです。

狭い世界に一人で閉じこもる生活は案外悪くなかった。どころか、大学デビューの反動で疲弊していた私にとって、全てが完結する下宿での毎日は天国のようですらありました。このデスクに向き合って過ごした二年間を、否定しようという気はないのです。

しかし、いよいよ4回生の名札をつけようとしている今、もはや駄々っ子のように部屋に引きこもっている訳にはいかなくなりました。研究室配属が刻一刻と迫ってきており、折しも対面講義の復活の兆しが見え始めています。

何も分かっていないまま、温情採点に助けられてここまでやって来た、温室育ちの冴えない成人男性。それが突然、天日の下に晒されて、己の青く弱弱しいところを徹底的に叩かれようとしている。

 

試験の過去問を印刷して、机に並べてみました。でも、すっかりだらけ切って大学アンチになってしまった頭には、何が何やら、てんで問題文の意味も分かりません。

初めは「俺たちってダメだよなあ~」なんて肩を叩き合っていた同級生たちも、なんだかんだ実は頑張っていたのでは? 本当の本当に無策のまま過ごしてきた愚か者は、俺一人だけなのではないか?

もはや、その真偽を確かめる術もありません。連絡できる知り合いもおらず、完全に一匹の濡れ狼となった私は、死地に向かうような苦しい心地でとぼとぼと歩いています。

 

 

 

見えるもの、聞こえ来る音、肌を伝う風……。あんな景色や、こんな音楽が、映像よりも鮮やかな過去の記憶を呼び起こします。

今日はいくつか、懐かしい感覚を思い出させる曲でも並べて、終わりにしましょう。記憶を呼び起こす魔力があってかつ、今は聴かなくなった音楽を。

 

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Utopiosphere (DEEMO)

中学生の頃、まだ「こちら側」の文化(=サブカル的な、オタクの文化)に触れたばかりのときに、好んで聞いていたような気がします。ピアノの美しい旋律で表現された、明らかに救いのない何か。

スコアをシェアするときに表示される「この世界に戦争や災難が無ければいいのに。」という文章は、幻想的な切なさを求め始めた思春期の心に、気持ちよく突き刺さりました。

今の私の価値観のベースが作られだしたのはこの頃です(今でいう「高校同期」の諸君も、私の人格形成に多大なる影響を及ぼしたと思います。責任とってよね)。これより以前の自分とはまるっきり異なる性格に変貌してしまったので、私はどこか、自分のことを「中学2年の冬に生まれた」と思い込んでいる節があります。

 

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高嶺の花子さん

高校の時点で既に、私は華のない陰キャとして完成していました。……がしかし、どんな人間であろうとも、ティーンエイジには何らかのエネルギーが湧き上がるものと見えます。

「高嶺の花子さん」は学生バンドの一員として文化祭に演奏した曲であり、また、backnumberファンの後輩と仲良くなりたくて聴き始めた思い出の曲でもあります。

決して歌詞そのままの甘酸っぱい青春があったわけではありません。しかし、その清涼感溢れるメロディの風は、自分で叩いたドラムのビートと共に、確かに高校生活のワンシーンを彩っていました。

 

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Rugie (Arcaea)

大学1年の秋でしょうか。講義をサボるということを覚え始めて、少しずつ堕落の道を歩み始めた一歩目の頃に、この曲と出会いました。

Arcaeaは2年生になってからも継続的に遊んでいたので、この曲に触れる機会も何度かあったはずなのに、どうしてでしょうか。薄いカーテンの傍の小さなテーブルで、繊細なメロディに感動しながら指を繰った、そんな昼下がりのイメージが何故か浮かびあがってくるのです。

Utopiosphereもそうですが、こういった「何を言っているかは分からないが切なく感じられて、破滅的なものをイメージさせる曲」には、ぐっと心臓を掴んで引き寄せるチカラがあるのかもしれません。

 

 

 

……最近お気に入りのgroup_inouなんかも、数年後には自分の感情のトリガーを引っ張ったりしているのだろうか。

そのとき私は、何を思って、どちらの方角を向いているだろうか。