210日目 秩序の函

 

人は身軽なほうがいい。

雑多なモノに溺れながら暮らすようではいけない。ちっぽけな人間ひとりの手中にちゃんと収まるくらいの、必要最低限のモノだけを持って生きるのが良いのだ。

私はそれを実践してきた。綺麗に整頓されたこの六畳一間が、私の身の内の世界。この函の中が「自己」で、外の街並みが「他者」。ミニマムを保つことが、シンプルな二元論で世界を捉えることを可能にした。

混沌を厭い秩序を愛する者として、常に身軽さを希求してきた。

 

希求してきたつもりだったのだ。

 

転居に向けた荷造りを始めて、私は思わず目を覆った。

使わなくなった書物や衣類、電気製品。記憶から抜け落ちていたそれらが、一斉に目を覚ます。あるはずもなかった混沌が、秩序の陰からめいめいに顔を出す。私という函は、初めから身軽でなどなかったのだ。

静謐を旨としていた心の水面に、大小さまざまな瓦礫が浮いては沈む。何から手をつければいい? どれくらいまでなら捨てていい? 心に荒波が立ち、白く美しかった「自己」を押し流す。

そうして私の函は、ジャングルになった。滋味に富んだ水に打たれて、原生林が生い茂ったのだ。

 

……なんかまとまんないんで適当にまとめますと、ごちゃごちゃして苦しいねって話です。かといって、全捨てというわけにもいかないし。