異郷の住民になりたい。
サイバーでパンクな写真を撮りたくなった。
ナイトシティに生きる男の完璧な一枚を撮るための条件は多い。
まず、夜中のビルの屋上でなければならない。摩天楼の天辺にしゃがみ込んで、眼下の大都会を見下ろすポーズを取る。
他に人っ子ひとり居てはいけない。孤高の一匹狼の背中は、一人きりでこそ画になる。
テックウェアを着る必要がある。黒の高機能コートにダボダボのズボン、あるいは極彩色に蛍光するパーカーでもいい。おまけにヘッドホンやフルフェイスマスク。戯画化されたテクノロジーを存分に身に纏う。
しかし、最大の関門はカメラマンだ。構図、フィルタ、全ては俺の頭の中だけに入っている。俺が俺を後ろから撮ることはできない。同行の友人に任せる限り、俺が完璧なネットランナーに成りきる瞬間は訪れない。
俺の思う俺は、俺の手によってしか撮ることができない。これが唯一、金や根気では解決できない課題なのだ。
かといって、友をランナーに仕立て上げて俺がシャッターを切る、なんてつもりもない。サイバーパンクの夢も、なりたいと願う心も、全ては俺自身だけが胸に抱えているのだから。
だが、世間知らずな空想、叶わぬ妄想で終わらせるのはあまりに惜しい。