1180日目 下層の魂

 

「20代のうちは死ぬ気で働けばいいと思ってる」「進んで苦労しなかった先の30代以降なんて無だ」「おっきい夢、目標のために経験を積みたい」だってさ。こいつもあの子も笑顔でそう言うんだ。俺ぁ目が潰れそうだよ。「先輩の『軸』は何ですか?」だって? 微笑んで誤魔化すことしかできなかったよ。

こんな真正面から真剣な立派すぎる人間はほんの上澄みだ、本当の人間はTwitterで見かけるようにみんな怠惰で利己的なもんだ、と信じたい。夢なんか無いだろう、普通なら。けれども、どんな因果であれこの身分違いな空間に2年近くも居続ければ、本来若者というのはこういうふうに目を輝かせているもので、その日その時の快不快だけを指針にのんべんだらりとしている自分は明確に魂のピラミッドの下層にいるのだと錯覚してくる。

そういう経験もいいことだ、と穏便にまとめようとすら最近は思えない。元気出していこうぜ! じゃあ気をつけて! の笑顔を貼り付けたまま、俺は尿意を我慢しつつ坂を登り、ダブチが食べたいだけの魂で何が悪い、もう全ては決まっているんだと少々苛立ちながら家路についた。風がめっぽう寒かった。