319日目 田園都市か? 下町か?

 

 

田園調布をご存じですか。

東急の沿線に位置する、まさしく「田園都市」線の顔ともいえる街、それが田園調布。駅を中心として同心円状に広がる、均整の取れた街並みが特徴です。実は、東急自らがプランして作り上げた、高潔な思想を誇る高級住宅街なんです。

……ではそもそも、田園都市とはなんでしょう?

 

 

1902年、イギリスの都市設計家であるエベネザー・ハワードが「明日の田園都市」を発表しました。

産業革命後の市街地で、労働者たちは劣悪な環境の中に生活していました。彼らに豊かで健康的な住まいを提案しようというのが、この「田園都市理論」だったのです。

広い広い同心円を均等に分割し、道や施設を決められた場所に配置する……。ハワードの完全なる理想の追求は、極めて秩序だった美しい平面図に現れています。

 


その後、田園都市理論は名だたる建築家・都市計画家に受け継がれていきました。現代日本でも、多摩ニュータウンをはじめとする多くの新興住宅街が、田園都市のルーツのもとに存在します。

 

 

一方、田園都市理論に真っ向からNOを叩きつけた人物がいました。都市計画家……でもない、アメリカの下町に住むおばちゃん、ジェーン・ジェイコブズです。

彼女の主張は概ね「郊外の計画的なニュータウンは人間味が無く寂れている」というものでした。反対に、彼女が愛する猥雑な町並みには、古い時代から受け継がれてきた起伏があり、狭く曲がりくねった中に人々の協力があります。そして、歩行者の充実は商店の発展を呼ぶのです。

 

 

例えば大岡山の商店街なんかは、厳密には無計画都市ではありませんが、徒歩通行者の力で発展を続けているという点で、ジェイコブズの思想に沿っていると言えるでしょう。

道幅が狭く騒がしいところですが、どうしてか居心地が良い。人間の活動のエネルギーを、そして街歩きの面白さを感じさせてくれる。ちょっとばかし窮屈そうではあるけれど、こんな街に住んだら楽しいに違いない。そう思わせる魅力が、ジェイコブズ流の下町には存在します。

 

皆さんは、ハワード的郊外ニュータウンと、ジェイコブズの下町、どちらが理想的な街だと考えますか? 

私ですか? 私はここまでの文章から分かる通り、かなりジェイコブズ側の主張を支持しています。有機的な町並みへの愛、公共交通への期待、都会暮らしへの憧れ……。私の中に詰まっている理想の「まちぐらし」像は、どれもこれも彼女の著作に捧げるものです。

しかし、皆さんの中には田園都市派の方もきっといらっしゃるでしょう。特に、人間の活動をシステムとして捉えていて、無機的な秩序の中に安心を覚える人は、ハワードへの共感を抱くかもしれません。

 

(画像は全てテキトーなサイトから借りてきました)

 

 

ちなみに、なんで急にこんな話を始めたのかと言いますと。

ついさっき、サバイバル型シムシティとも言われる「Frostpunk」というゲームを始めました。極限状態を生き抜くためには、有機的で非合理的な人間の楽しみを捨て、無機的で合理的な街づくりをしなければならないわけですが……。

 

 

……絶望の底にあるディストピアの街並みが、希望のもとに構想された田園都市と酷似していることに、思わずヒヤッとするものがあります。