175日目 SSを書こう! その②

 

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ZOZOTOWNスレイヤーズ」 作・きりちに

 

 ぞたうんは国内で最も勢いのあるファッション通販サイトである。時代の最先端を行く若者の間でこのサービスは爆発的に広まり、今や天下統一目前とまで言われている。そんなZOZOTOWNを、質・知名度の両方で上回る新たなサービスを以って叩き潰したい――。路地裏の寂れた飲み屋で、熱い思いを持つ3人の脱サラ男たちが、今宵も激論を交わしていた。

 

 れーん役のメガネが、几帳面に指を拭きながらぼやく。こないだの共同出資者の件だが……あいつとは破談になったよ。なんでも、新規路線を開拓しようとしているらしい。お上に目をつけられたら困る、お前たちも大人しく事業を畳んだほうがいい、だとさ……。

 

 たきつけたグラスから酒がこぼれるのにも構わず、角刈りは激高した。ふざけやがって。事業を畳めだァ? そんな弱腰でいっから、ますますあいつらが増長しやがるんだ。このままもっと独占されたらどうなる、え? ドカッとショバ代が吊り上げられて、ちっせぇ店は全部死んじまうに決まってんだ、バカヤロウめ。

 

 あおい、ちょっと飲みすぎだぜ。おうい、マスター、何か拭くものはあるかい? ——ひときわ目立つ赤いシャツを着たちょび髭が、角刈りを宥める。——まあまあ、そうカッカすんなって。あいつだって、今はビビっちまってるけど、腹ん中はきっと同じさ。なあに、これから俺らが立派なモンを作ったら、みんなこっちに鞍替えするに違いねえ。そうだろ? ……おうい! マスター!

 

 ょょょょょょょょょ!! 赤黒い液体を勢いよく啜りながら、マスターが左手を挙げた。見ると、その腕にはびっしりと血管が蠢き、肘があり得ない角度に曲がっている。全身をびくびくと痙攣させ、汚い汁をまき散らしながら、彼はカウンターの真ん中で踊り狂う。そして、不意にピタリと立ち止まったかと思うと、真っ赤に血走った目でギロリと酔客を睨んだ。

 

 いいいいいい!! た、助けてくれえ!! なんだってんだ!? 一気に酔いが吹っ飛んで、男たちは悲鳴を上げた。あたふたと椅子から転げ落ち、大事なメガネを踏みつぶし、グラスをガチャガチャと蹴飛ばしながら、一目散に出口へと駆け出していく。しかし、逃げようにも足がふらついて、まっすぐ走ることができない。しまいには、角刈りもちょび髭もみんな壁に激突して、ぐったりと伸びてしまった。

 

 どく荒らされた店内を気にするふうでもなく、化け物はのっそりと出口へ向かった。足が変形したおぞましい触手を引きずり、口からどす黒い液体をぼたぼたこぼしながら。化け物が往来に出てくると、通行人たちは立ち止まり、泣き叫びながら逃げ惑う。転倒して頭を打ちつけて動かなくなる若者、へたり込んで失禁する老人……。そう、ここは背筋がぞぞっと逆立つ街、ZOZOTOWN

 

~完~