く~~~~~~~~~~~~~っそ久々に対面講義を受けに行きました。
少しずつハイブリッド形式が許可されだしたので、その気になれば先々週からでも、大学に通うことは可能でした。でも、引きこもりって超快適だし、数ヶ月越しの再開を果たした同期たちと一言も話せる自信が無い。
そんでまあ、今日はメソメソしつつも尻を叩かれて渋々漕ぎ出したわけです。チャリの後輪のエアー抜けヤバすぎ。ちょっとチャリ屋に寄っていきます。
大学構内に近づくと、大量の学生たちが群れを成している。茶髪を振り乱して大声で喋っている陽キャも、服のセンスがぶっ壊れてる陰キャも。お天道様のもとで既にアカデミーは活き活きと動き出していて、そうとも知らない俺は一方的に下宿に閉じこもっていただけだったのです。これは堪えます。
ぴやぴやに寂しくなったこの胸をベージュのパーカーに隠して、何食わぬ顔でチャリを走らせます。見えてきました、我が学科の牙城が。ここにチャリを停めるのも久しぶりです。
棟内に入って階段を上っていくと、賑やかというほどではないけれど、さまざまに会話する声が聞こえてきます。このご時世にあっても、なんだかんだ同期たちは互いに交流しあっていたんでしょう。
俺ひとり耳をふさいで生きてきた一年半の間に、弊学科ではどんな密会が行われ、どんな人間関係が作り上げられてきたのでしょう。分からない。分からないから、キャンパスに足を踏み入れたくなかったんです。
やがて目的の階まで上がってきました。大教室は二つある。どっちで講義するのかな。片方の室を軽く覗いて、もう片方を見てみようと振り返ったそのとき……。
数メートル先に、こっち方向へ歩いてくる人影。もう名前も忘れたけど、顔は確かに覚えている、陰キャ仲間の姿が。
彼もまた、二つの教室の様子を探ろうとしている最中でしょう。
そのまま互いにすれ違おうという局面に、俺とそいつは差し掛かりました。
なんと声を掛ければいい? どんな距離感で接すればいい?
怖い。緊張する。でも、このまま決裂させたくはない……!
「おぅ」
口からつぶやきが洩れました。ほんのわずかに左手を挙げました。
本当にちょっとだけ、挨拶だなんてわからないくらいの小さなハンドサイン。
それで十分だったのです。
向こうの頬が緩むのを、視界の端で捉えながら、私は密かに救われました。
私という冴えない学生が存在するならば、他のどこかにも冴えない彼や彼女がいる。私が不安を抱えているとき、きっと彼らも同じような不安を抱えている。
それならば、私が彼らに向かってつぶやきを投げかけたぶんだけ、微笑みを投げ返してくれる者も一人や二人はいるに違いありません。
この話はこれでおしまいです。