81日目 藪から棒に言葉の話!

 

突然ですが、日本語のフレーズで心地よく聞こえるものには、共通のリズムがあることをご存じですか?

 

例えば、今日の日記の「藪から棒に言葉の話!」というタイトル。これは7音と7音からなる「七七」のリズムに乗っています。「やぶからぼうに・ことばのはなし」ですね。

一般的には「七七」と「七五」が最も耳に馴染むリズムであると知られています。特に、作品のタイトルなどでビシッと締まるのは「七五」のほうかな。和歌や短歌の「五七五七七」の一部であると捉えれば、分かりやすいかもしれません。

 

「七七」や「七五」のリズムの心地よさは、音楽のリズムをイメージすると説得力が増すかもしれません。

ポイントは「綺麗に2小節に収まること」です。

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上の画像は七七を楽譜にあてはめたものです。

コク、コクと頷きながら「かえるのうたが・きこえてくるよ」とつぶやいてみてください。確かに収まりが良い、と思っていただけるのではないでしょうか。

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こちらは七五。後ろの小節に余韻が多く取られていますね。

 

綺麗に2小節に収まればよいという考えかたに基づけば、これら以外にもいくつかの派生形が生まれます。

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例えば上のように、8分休符の代わりに8分音符を入れた「八五」のリズム。

実例としては「世話やきキツネの仙狐さん」とかね。

 

ちなみに、教養科目としてシェイクスピアの戯曲を渋々学んだことがあるのですが、文中にたくさん「五七」のリズムが現れたのには驚きました。日本か外国かに関わらず、人間は誰しも似たようなリズムの感覚を持っているのかもしれません。

 

ある程度説明したところで、今度は実際の適用例を見てみましょう。

ここにゲーム版ウマ娘の歴代イベントのタイトルを列挙していきます。

 

・キミの夢へと走り出せ!

きみのゆめへと・はしりだせ(七五)

・Brand-new Friend

(例外。英語のタイトルには独自の理論があるけれど、今回は割愛)

・花咲く乙女のJunePride

はなさくおとめの・じゅーんぷらいど(八七。七七の派生形)

・幻想世界ウマネスト

げんそうせかい・うまねすと(七五)

ウマ娘夏物語

うまむすめ・なつものがたり(五七)

・Make up in Halloween!

めーくあっぷいん・はろうぃーん(八五)←こじつけ

 

どうでしょうか。結構「なるほどね~」って思ってもらえたのではないかと。

というか「うまむすめ・ぷりてぃーだーびー」の時点で五八のリズムに乗っているんですよね(五七の派生形)。制作スタッフの強い意識が伝わってきます。

 

さてと。今日のお昼に、ウマ娘の新たなイベントが告知されました。

以下公式ツイート↓

 

・晩秋、囃子響きたる

こちらが新イベのタイトル。「ばんしゅう はやし・ひびきたる」と切り分ければ、七五のリズムに乗っているのがわかりますね。

古風でたいへん美しいタイトルですねえ……。

 

 

いやいやいやいや! ちょっと、ちょっと待ってくださいまし!

このタイトル、直感的にめっちゃキモくありませんこと!? どうしてもこのフレーズが許せなくて昼しか寝られなくってよ! 

今日はこれから文句を言わせていただきますわ! 

(ここから先だけが今日の日記の本題ですわ! カワカミプリンセスですわ!)

 

①助動詞の活用の問題

「たり」は完了の助動詞。「たる」は連体形、すなわち体言(名詞など)を修飾する活用形です。

例えば「響きたり」ならば終止形なので文末に適していますよね。

しかし「晩秋、囃子響きたる」は連体形。「響きたる○○」の○○には何が想定されているのでしょう。読めば読むほど違和感が出てきます。

 

ひとつの解釈として、これは倒置法なんじゃないか、と考えることは可能です。「囃子響きたる晩秋」の前後を入れ替えて、七五のリズムに乗せたというわけ。

これをダメだというつもりはないのですが、イベントのタイトルというものはなるべくストンと腑に落ちたほうが良くないですか?

「晩秋、囃子響きたる……。響きたる何? あ、晩秋が修飾されてるのか。へ~、分かるような分からんような」という思考が発生した時点で、私の好みとは決定的に合わないのです。

 

②時制の問題

「たり」は完了の助動詞です。厳密には存続の用法もあるのですが、現代人の多くは「してやったり!」のように完了の助動詞として納得しているのではないかと思います。

これに基づいて「晩秋、囃子響きたる」を解釈すると、囃子は既に響き終わったもの、ということになりますよね。あるいは、晩秋が既に完了したと捉えても良い。

つまり、これからやってくる晩秋という季節、これから始まるイベントに対して、過去の時制を当てはめているわけです。心がすっごくザワザワしませんか。

「イベントストーリーを走り終えた後のウマ娘の視点から、思い出を振り返るという形で付けられたタイトルなのだよ……」と言われれば、まあ完了でもいいかもしれません。しかし、我々プレイヤーはこれから晩秋に挑もうとしているんですよ。心情の盛り上がりを考えるならば、このタイトルはなんだかズレている気がするなあ。

 

え? 「存続の用法ならイケるんじゃね」だって?

ぶ、文法的にはギリギリセーフだったとしても、受け手に馴染みがない用法で使うのはタイトル付けとしてどうかと思いますわ!

あんまり文法について語るとボロが出そうですの! 勘弁してくださいまし!

 

③助詞の省略とリズムの問題

「晩秋、囃子響きたる」はイニシエの風情をイメージさせる美しい単語で構成されています。……それなら、細かいところを丁寧にしたほうがもっと素敵になるのでは?

「晩秋、囃子響きたる」→「晩秋、囃子響きたる」

なんとまあ、雅やかなこと!

 

いま、どっちでもいいっておっしゃったかしら? ふふん、甘いわね。

「の」を入れると丁寧になるだけではなくて、リズム的にも効果があるのよ! キングヘイローよ!

 

「ばんしゅうはやし〇・ひびきたる」は七五のリズムだと言ったわね。

でも、この「〇」という空きが厄介だわ。「囃子響きたる」はひとつの固まりになっているから、真ん中を「囃子〇響きたる」と分割して捉えるのは気持ち悪いのよね。

この空白を埋めるのは誰? そう! 「の」よ!

「ばんしゅうはやしの・ひびきたる」とすれば、変な空白を取ることなくすらりと読むことができるわ! おまけに「囃子の響きたる」は「の」のところで文法的にも字面的にも綺麗に分割できるから、自然に八五のリズムで読むことが可能になるのよ!

 

オーッホッホ!

 

★代案を出せですって!?

わやわやと文句だけ言うのは卑怯者のすることです。ちゃんと添削までやっていきましょうね。サイゲのライターさん、無礼をお許しください。

「晩秋、囃子響きたる」を、①終止形に直して、②現在の時制にして、③助詞を入れてリズムをつけてみます。

 

晩秋、囃子の響きくる

 

どうですか? 古語ではなく現代語を採用したので「くる」は終止形になっています。

……う~ん、微妙に落ち着かないかな。思い切って分かりやすい動詞に変えましょう。

 

晩秋、囃子の響きあふ

 

やっぱり古語に戻しました。こちらのほうが雅やかで、囃子のハーモニーも聞こえてきますね。

 

……いやあ、やっぱり厳しいかも。美しい日本語にはなったと思うのですが、タイトルとしてはどうもインパクトに欠ける。

 

そもそも、タイトルの締めかたの基本は体言止めなんです。「花咲く乙女のJunePride」が分かりやすいですね。これに比べると、動詞などを用いた用言止めは、文末が流れていくような落ち着かない印象になります。

それからこれは身も蓋もない話ですが、本来なら季節イベは「ジューンプライド」や「ハロウィーン」のような大きなイベントにかこつけて行われるもの。なのにサイゲくんは、特にお祭りのない晩秋に無理やり季節イベントをしようとしているんですよね。「晩秋」は綺麗だけれど、固有名詞ではないからパワーが足りない。

 

ここはひとつ、晩秋のパワフルなイベントを拾ってきて、ドカンと体言止めで締めてみましょう!

こちらです!

 

 

囃子よ響け! 七五三

 

 

う~~~~~ん!! 風情が死んだぁ~~~~~~~!!